修羅

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***  美羽姉の計画にのる関係で、仕事をセーブすることを編集部に報告すべく、いつもお世話になってる職場に顔を出した。ほかにも俺が復讐に手を貸すことを、美羽姉に即却下されたことについて、リカバリーするためでもある。 「お疲れ様でーす!」  慣れた様子で挨拶した俺を、デスクで仕事をしてるヤツらがギョッとした表情で眺める。あからさま過ぎるその様子に、苦笑いを浮かべてやり過ごした。 「白鳥、モデルに戻るのか?」  傍にいる先輩に声をかけられたので、首を振りながら否定する。 「ただのイメチェンです」  俺が美羽姉の計画を実行するにあたり、一瞬だったがファミレスでアバズレとすれ違ったことを考えて、イメチェンするのを提案された。 『学くんはいつも寝癖をつけてるから、それをわからないようにするために、オシャレなパーマをかけようね。髪色を明るくするのも、雰囲気が変わって素敵かも』  という美羽姉のアドバイスのもと、美容院に強制連行されて、チャラすぎない程度の髪色に染められた髪をウェーブヘアにされた。指導してくれた美羽姉も、俺の隣で肩まで伸ばしていた髪をバッサリ切ってショートヘアにした。  その後、売れっ子カメラマンに見せるために、某ブランド店で普段着を買い揃えてもらった。顔が良くても、ヨレヨレのTシャツを着ていたら、誰も寄ってこないと渋い顔した美羽姉に豪語された時点で、俺の恋は終わってる。  なので今の俺は、普段の俺とは180度違って見えるゆえに『モデルに戻るのか』なんて言葉がかけられたのだろう。  編集部に顔を出した時間が遅いこともあってか編集長は不在で、副編集長が変な笑いを頬に滲ませて、俺の顔をまじまじと見つめる。 「し~ら~と~り~、アンタ彼女ができたんでしょ?」  格闘系の体格で厳つい顔をしてるのに、オネエ言葉を使う副編集長と喋るのは、かなり疲れる。だから普段は接触しないようにしていたのに、こんなときに限って会話することになろうとは最悪だった。 「違います。お願いがあって、ここに来たんですが――」 「私もお願い~。このまま6階のポップエイジの編集部に行って、半裸になったところを撮影してもらいなさい。報酬は私宛でよろしくってことで!」 「仕事のセーブをお願いしに来ただけですので、半裸の撮影は絶対にしませんよ」 「お仕事をセーブするなら、報酬はハーフハーフにしてあげる」 (ああ言えばこう言う。だからこの人は苦手なんだ……) 「仕事のセーブを頼みます。それで一ノ瀬さんはいますか?」  副編集長の言葉をまるっと無視して、逢いたい人の名前を口にしたら、至極つまらなそうな顔のまま、目の前にあるパソコンに視線を移した。 「成臣(なりおみ)なら、隣の部屋でシコってるけど」  副編集長とカメラマンの一ノ瀬さんは同期という間柄で、一時期はコンビを組むぐらいに仲が良かったのを、ほかの人から聞いたことがある。現在は互いの立場が違うせいか、妙な距離感があった。 「ということは、写真の修正作業をしてるんですね」  もっとマシな言い方をしろよと思いながら、その場から踵を返して、一ノ瀬さんがいる隣の部屋に移動する。
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