鉄槌

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『美羽ちゃん、学に言われたんだ。余計なことを言ったら、親子の縁を切るって。大好きな美羽ちゃんのために、あのコは全力でやり遂げようとしてるんだよ』 「学くんがそんなことを――」  学くんの覚悟を知り、大変なことをしてしまったと思ったら、血の気が引いた。 (学くんにそんなことを言わせてしまったのは、すべて私の責任だ――) 「美佐子おばさん……」 『いくつになっても、あのコは私の子どもで、心配しない親なんていないだろ?』 『美羽だって同じよ。いくつになっても貴女は私の娘なの』  私と学くんを心配するお母さんたちの気持ちは、痛いくらいにわかる。子どもを心配しない親はいないのだから。お腹のコを失ったからこそ、その思いはすごくわかるのに。 「お母さん、ごめんなさい。それでも私は引けない……。失ったものがあまりに大きくて、公的に訴えるとかそんなことじゃ、この恨みを晴らすことができないの!」  そう言い放ち、実家を飛び出してきた経緯がある。そして美佐子おばさんと会話したことを、学くんに絶対悟られてはいけない。バレたら、親子の縁を切ってしまうことにつながる。 「美羽姉、コーヒー淹れるけど、ブラックでよかったよな?」 「うん、大丈夫……」  大好きな美羽ちゃんのために――美佐子おばさんはそう言った。好きって幼なじみとしての好きじゃなく、恋愛感情で好きという意味だったなんて、どうしたらいいのか。 『そんなことないって、美羽姉はかわいい! 俺はそんな美羽姉が好きだ!』 『俺が美羽姉を支えてやる。それでも駄目なのか?』 『美羽姉と修羅の道に落ちるなら、ひとりよりもふたりのほうが、少しでも不安が軽くなるかなと思ってるんだけどさ』  その場面の言葉と学くんの表情を思い返して、深く反省するしかない。彼は自分の気持ちをきちんと告げていたのに、私はそれを『幼なじみの同情』と捉えてしまい、恋愛に結びつけることがなかった。  それらを思い出しただけで、顔がさらに熱くなる。今までのように学くんに接するなんて、そんなのどうしても意識――。 「つめたっ!」  ヒヤリとしたものが、いきなりおでこに当てられる。考えにふけっていたせいで、学くんが傍にいることにさえ気づけずに、驚きの声をあげてしまった。 「さっきの痛かっただろ? 痛いのガマンして、そんな顔色になってるのかなって」  学くんは心配そうな顔で私の隣に跪き、大きな手で小さなアイスノンを押し当ててくれる。その優しさが嬉しくて、顔がニヤけそうになった。
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