鉄槌

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「僕の好みですか?」  不思議そうな表情で、綺麗な一重まぶたが何度か瞬き、なんでこんなことを聞くんだというのが雰囲気で伝わってきた。  どんな顔も見逃したくなかった私は、穴が空く勢いで彼をじーっと見つめる。見てるだけで、癒しの対象になる翼くん。良平きゅんとチェンジしたいくらい♡ (もしかしてこうして視線を合わせてるだけで、傍から見たら恋人同士に見えるかも~♡)  そう考えたら、体が勝手に翼くんに向けて傾いた。彼の腕が私の腕に触れた刹那、それを察知したかのように、翼くんが目の前に立ち上がる。傾いた自分の体が倒れないように、翼くんが座っていたところで腕を支えにした。 「僕のことを知りたいのなら、まずは貴女のことを教えてください。春菜さんが僕に興味があるように、僕も貴女のことが知りたいです」 「翼くん、春菜に興味があるの?」  翼くんの座っていたところのぬくもりを、てのひらに感じながら問いかけると、爽やかな笑みでニッコリほほ笑まれてしまった。私だけに笑いかけるそれに、胸がきゅんと疼いてしまうのは必然だった。 「友達のことを知りたいと思うのは、おかしいですか?」 (カッコイイ彼の口から『知りたい』と何度も言わせる春菜の存在は、なんて罪なの~♡) 「翼くんってば本当は春菜と、友達以上の関係になりたいんでしょ?」 「なりません。だって春菜さんは人妻ですから」  ほほ笑みを絶やさずに答えてくれたセリフは、春菜をガッカリさせるものなれど、彼の興味をバンバン引いて、友達以上にさせようと心に決めた。 「そんな人妻の春菜のスリーサイズは、なんでしょうか?」  明るい声で訊ねた途端に、翼くんの口角が自慢げにあがった。 「僕が質問したのにクイズを出すなんて、春菜さんは意地悪ですね」 「当てたら、なんでも答えてあげる」 「女性は補正下着で、体型を変えることができるのに……。とりあえずわかるのは、春菜さんのバストサイズは、F以上あることです」 「翼くんすご~い。正解、春菜はGカップあるんだよ」  言いながら両腕で大きな胸を挟みつつ、体を揺らして喜びをアピールしまくった。揺れる春菜の胸を見て触りたくなるように、翼くんの目に見える刺激を与えた。 「そうなんですね。でしたら旦那さん、毎日幸せなんじゃないですか」  どこか棒読みっぽい喋り方で話した翼くんの対応に、春菜の頭の中にクエスチョンマークが出たけど、会話が成立してるだけで満足だった。 (――もしかして翼くん、良平きゅんにヤキモチ妬いてるとか?) 「ぶっぶー、そこは不正解。春菜は新婚さんなのに、ずーっとセックスレスなんだよね」  胸のアピールはそのままに、俯いて答える。だけど口調は常に明るくして、翼くんに気を遣わせないようにした。 「新婚なのに、それは変ですね」 「結婚前にヤりまくり過ぎたのかも。良平きゅんに飽きられた感じかな」 「…………」  なぜか返事をしない翼くんを、不思議に思った。顔をそっとあげて前を見つめたら、口元はほほ笑んでいるのに、目がまったく笑ってなくて、どこか怖い顔にも見える翼くんの顔と、良平きゅんの顔がなぜか重なる。 「つ、翼くん?」 「雨、降ってきました……」  私から視線を逸らし、空を見上げながらてのひらで雨を受け止める翼くんの姿は、まるでドラマに出てくる俳優みたいだった。あまりの格好良さに言葉を失ったまま、ずっと見惚れてしまう。 (翼の折れた天使が天界に戻れなくなって、寂しそうに空を見上げてる設定なんていうのは、ありきたりかな……)
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