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「何はともあれ、幼なじみちゃんは復讐してること、後悔してる?」
ほほ笑みながら一ノ瀬さんに質問されたことは、すぐに答えることのできるものだった。
「私の弱さのせいで、彼を巻き込んでしまったことについては後悔してますが、それ以外は後悔してません」
「復讐もさ、悪いことばかりじゃないと、俺は思うんだ」
モニターには、あのコが楽しげに学くんに話しかけている様子が映し出されていて、学くんはキッチンに立ったまま、お茶の準備をしている。傍から見ていると学くんの素っ気なさが、あのコのテンションの高さに繋がっているような気がした。
「復讐すること、親に反対されました」
「それは親だからさ。子どもを心配しない親はいない。でもね、君が復讐する人間だと知った相手は、真摯な態度で今後は接することになる」
「真摯な態度ですか?」
頭の中に疑問符が浮かんだ。告げられた言葉を咀嚼しようとしても、イメージがなかなか思いつかない。
「だって適当なことして、傷つけたりトラブルが起こったら、なんらかの方法で君に復讐される恐れを感じるから」
「あ……」
「つまり復讐することによって、自分の身を守ることにつながってるわけ。だから俺も君に絶対手を出さない」
爽やかに笑いながら親指を立てて、手を出さない宣言をされたので、ちょっとだけ一ノ瀬さんをからかってみたくなった。
「百発百中でも?」
「それは種明かししちゃうと、俺に気のない女性に手を出してないだけ。幼なじみちゃんは俺と話をしてるけど体の向き、斜めになってるでしょ。それが気のない証拠になるんだ」
「無意識でした……」
目を瞬かせて驚きを見せたら、一ノ瀬さんは納得したように何度も首を縦に振る。
「ほかにもバーに行ったとき、相手にカウンター席とテーブル席を選ばせて、テーブル席なら、そのままお帰りコースだったりするんだよ」
「うーん。一ノ瀬さんと相手の間に、テーブルという障害があるからですか?」
「そういうこと。カウンター席で並んでも、幼なじみちゃんのように体の向きが逆方向なら、ホテルに行くことはほぼないね」
人間観察ができる人ほど、とても機微に聡い。私も同じように相手のことがわかれば、あのコに対抗できたのに――。
「そろそろ白鳥がこっちに来る。カフェオレを作るための牛乳を買いに、コンビニに行くという理由を作ってマンションを出て、女をひとりにする作戦なんだ」
「学くんがいない室内で、あのコがなにをするのか――」
私が声を潜めて告げると、一ノ瀬さんは嬉しそうに瞳を細めて、モニターに映る彼女の顔を人差し指で突っついた。
「まず間違いなく、いい絵を撮ることができると思う。白鳥のプライベートと彼女を知るために、絶対やらかすハズなんだ」
一ノ瀬さんが私に説明したら、車の後部座席のドアがいきなり開いた。
「美羽姉?」
「学くん……」
お互い黙ったまま、息を飲んで数秒間見つめ合う。
学くんがあのコと逢ってから、ラインのやり取りばかりで、こうして対面したのが久しぶりだった。私を見つめるまなざしから熱を感じてしまい、気恥ずかしさで戸惑った結果、自ら視線を大きく逸らす。
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