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ピンポンの音が室内に響き渡り、慌てて玄関にダッシュした。動くたびに濡れまくった下着の気持ち悪さを感じて、心底うんざりする。
最初は翼くんがトイレに行ったときに、盗聴器を仕掛けようと計画していた。案内されたテーブルの前に座りながら、目に映る家電の位置や、使えそうなコンセントの位置を把握しているのを悟られないように、翼くんに話しかける。
「春菜さん、すみません。美味しいカフェオレを作ろうと思ったんですけど、ちょうど牛乳を切らしてしまって。今から買ってくるので、留守番頼んでいいですか?」
キッチンでお茶の準備をしていた翼くんのセリフに、私の心が歓喜した。
「いいよ。翼くんの奥さんになったつもりで、お留守番するね♡」
「いや、そこは普通に友達でいてください。旦那さんに嫉妬されてしまうので」
困った顔した翼くんは、玄関で慌ただしく靴を履き、爽やかな笑顔を振りまいて出て行く。目に映る背中に「いってらっしゃい」を言って、きちんと送り出してから、急ぎ足で自分の鞄に近づき、用意していた盗聴器を手にした。
怪しまれないように、電源タップに偽装した盗聴器をどこにしかけようかと、右往左往してコンセントの前を行き来する。
(そこのコンセントにはスマホの充電機が挿さっているし、空いてるコンセントにこれを挿して、翼くんの目に留まるのもダメだな)
一番わかりにくいであろうと思える、テレビの裏側を眺めたら、いい感じにコンセントが空いていたので、テレビ台をずらして盗聴器を仕掛けた。
(これで翼くんの彼女を知ることができれば、どんな女のコが好みなのかがわかる。それに私生活で、なにが不足しているのかわかれば、春菜がそれを翼くんに与えればいいだけ)
「くふふっ、人妻の春菜に夢中になる翼くん、かわいいんだから♡」
ずらしたテレビ台を元に戻して、部屋を見渡したとき、大きなクローゼットが目に留まった。
春菜と逢うとき、いつもオシャレなブランド品の洋服を身につけてる翼くん。彼のすべてが知りたいと思ったから、当然クローゼットの中を拝見する。
取っ手に利き手をかけてクローゼットを開けたら、大きなタッパーが棚に置かれていて、不思議に思った。
「こんなところに目立つ感じで置いてある大きなタッパーって、いったいなにが入ってるんだろ? もしかして翼くんが大事にしてる、口にできない秘密だったりして」
クローゼットは、毎日使うものをしまっておくところ。開けたらタッパーが目につくというのは、それだけ心をかけている証拠だ。
ワクワクしながら両手を伸ばした刹那、大きなものが春菜の視界を遮った。驚いて声をあげそうになりながら、うっと息を飲んで落ちてきたものを拾いあげる。
「あ~っ! これって、春菜が公園で翼くんと初めて逢ったときに着てたシャツ♡」
カメラで春菜を撮りながら笑顔を見せてくれた翼くんとの出逢いは、忘れることができない思い出になった。目をつぶれば、あのときの光景がまぶたに流れるくらい、鮮明に覚えてる。
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