鉄槌

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 そんな私たちの関係が変わったのは、良平さんの浮気が発覚して困り果てる私に、学くんが手を差し伸べてくれたのがきっかけだった。  自分の持つスキルを使って、良平さんたちのことを調べあげただけじゃなく、流産して運ばれた病院で良平さんの盾になって守ってくれたことや、泣けない私の代わりに泣いてくれたこと。ほかにもたくさん学くんを酷使している事実に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。  複雑な心境を抱えたそんなときに、彼の気持ちに気づいたことで、あらためて学くんを意識した。 『美羽姉のために、俺はうまくやる。だから見ていて』  頼りがいのあるひとりの男性が、私のすぐ傍にいたことで、どれだけ心強かったか。 『俺が頼れる男だって証明してみせる』  俺を見て、好きになってほしいっていう気持ちが言葉から溢れていて、それを感じるだけで、心がすごく揺れた。しかしながら彼に惹かれる一方で、別なことを考えてしまう。 「学くんの相手が、私みたいなのでいいのかなって思うんです」  6つも年上で、バツがついてる私。学くんにもっと似合うかわいいコが、ほかにいるような気がしてならない。 「どうして?」 「学くんは優しくてまっすぐで……。とても綺麗だから、私みたいに復讐するような腹黒い女には、ふさわしくないと思って」  いろんな理由がほかにもあったけど、一ノ瀬さんに説明するのに、手っ取り早いことを口にした。 「俺はそう思わないけどね。幼なじみちゃんの目には、白鳥の姿が綺麗に映ってるのかもだけど、さっきも言ったろ。アイツは装うことに長けてるって。天使の皮を被った悪魔なのにさ」 「学くんが悪魔?」  驚きながら訊ねると、一ノ瀬さんは胸の前に腕を組んで、車の天井を見上げた。 「俺は自分の気持ちを隠すことがないから、白鳥の気持ちはわからないところが多い。だけど、第三者目線で君たちを見たときに感じたのは、幼なじみちゃんが浮気された末に離婚して、傷ついたところをうまく見極めたんだろうなって。君の心が弱ってるところを、アイツは狙ったんだよ」 「弱ってる私ですか?」  一ノ瀬さんは天井を見上げていた視線を私に移して、人差し指を立てながら説明を続ける。 「男としては、好きな女を口説く絶好の押しどき。しかも復讐に手を貸すことで、自分の気を惹くことができる。同じ目標を共有する関係は、仕事やプライベートでも、必然的に距離が近くなるしね」 「…………」  確かに学くんにいろいろ相談したことで、幼なじみという間柄を超えた関係になっている。復讐に巻き込んでしまったことを後悔している私とは逆に、彼は素直に自分の気持ちを伝えて、私を想ってくれてる。 「白鳥にふさわしくないとか、そんなもんじゃなくて、もっとシンプルに考えてみたらいい。頭でぐちゃぐちゃに考えすぎるから、迷いが生じるだけなんだ」  言いながら、立てていた人差し指を私の胸元に差した。 「アイツの傍にいて、ドキドキしてるかどうか。それだけだよ」 「私の気持ち……」 「無理してそれを隠そうとしたり、ないものにしようとしたら、きっと今以上に心が壊れてしまう。素直に想いを伝える白鳥相手に、幼なじみちゃんも素直になってみたら?」  自分のことでいっぱいいっぱいになってる私に、優しく諭してくれた一ノ瀬さん。その言葉を忘れないように、胸に刻んだのだった。
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