終焉

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*** 手にしたスマホを見ながら、呟かずにはいられない。 「やだよ、こんなの絶対に無理……」  どうしても信じられなかった。現実を受け止めたくなくて、拳を握りしめながら何度も首を横に振る。  翼くんにラインを送ってみたけど、ずっと既読にならない。それは、翼くんの家に盗聴器を仕掛けたあとからだった。 (――これってもしかして、ブロックされてる可能性がある?)  それを確かめるために、翼くんのラインのホームにいってみたけど、今まで見ることのできたものがなにも見られなくなったことで、ブロックされたのが確定してしまった。 「嘘……。もしかして盗聴器が見つかったの?」  あれから何度か翼くんのマンションに赴き、ドアノブを引いてみたりして、鍵の施錠を確認した。せっかく足を運んだのに、しっかり鍵がかけられているし、ピンポンを押してみても本人は不在。Twitterも更新がなくて、彼が今どこでなにをしているのかすら不明だった。 (このまま諦めるわけにはいかない。せっかく翼くんと友達になれたんだから。盗聴器をなんとか外して、友達以上の関係になるもんね♡)  午前中はダメだったけど、お昼すぎと夕方に行ってみようと計画し、急いでお昼ご飯を食べてから、翼くんのマンションに向かう。 「……鍵がかかっていませんように!」  利き手でドアノブを引くと、扉の重みを指先に感じた。音が鳴らないようにゆっくり開けながら、前後左右を見渡して人の有無を確認したのちに、翼くんのお宅にお邪魔する。  さくらんぼのタルトをご馳走になったときと、なんら変わりのない部屋の様子を見渡して、足音を立てないようにテレビ台に近づき、奥にあるコンセントの部分を覗き見る。 「ない……」  盗聴器を仕掛けたなら、盗聴する音で機械の確認をすればいいと思ったものの、ラインのブロックが想像以上にショックすぎて、それすらできなかった。音が拾えない時点で、盗聴器が翼くんに発見されたのを、耳で確認したくなかったのもある。  目に映る現実に腰から力が抜け落ちて、その場にしゃがみこんでしまった。 「……春菜さん、僕がいないのに勝手に家に侵入するなんて、泥棒と一緒ですよ」  背中にかけられた声で、翼くんだとわかったけれど、振り返ることができない。だって、もう友達じゃいられなくなったのだから。 「翼、誰かいるの?」  若い女の人の声が春菜の耳に届いたことで、体がぶるりと大きく震えた。彼にはほかに女友達がいないことと、翼くんを呼び捨てにしてる時点で、彼女だと断定できてしまう。  思いきって顔を動かし、翼くんがいるところに視線を注いだら。 「美羽……先輩?」 「春菜さん貴女、こんなところでなにをしてるの?」  紺色のスーツを着ている美羽先輩の腰に、翼くんの腕が絡んでピッタリ寄り添っている様子は、どこからみても恋人にしか見えなかった。 「美羽先輩こそ、どうして翼くんと一緒に……」  震える声で訊ねてしまった。突きつけられた衝撃的な現状がきっかけになって、翼くんとの出逢いから、今までのことが脳裏に流れていく。そこから作為的な出来事を拾い集めようとしてみたのに、どれもこれもそんなものを感じさせなくて、頭が悩乱する。
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