1. 婚約破棄

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1. 婚約破棄

「アニエス、陛下の前で宣言する! お前とは婚約破棄だっ!」  ここは宮殿のサロン。わたくしことアニエス・オードランは陛下夫妻や婚約者のケヴィン王太子、それにお父様、お母様、我が双子の妹カリーヌの前で(いわ)れのない罪を着せられ断罪されていた。 「し、信じられない……。お前がそんな酷い娘だとは」 「オードラン公爵、この通り証人もいる」  用意周到なこと。ケヴィン様はわざわざ貴族院の同級生をお連れになられています。コーム、シリル、ディオンはわたくしの元親友です。 「は、はい、私どもは二年前、毎日アニエス様に虐められていました。親友だと思っていたのですが、とても悲しかったです」  三人は感極まってわんわん泣き出した。  それ、虐めたのですから。でも気づくのが遅かった。わたくしはケヴィン様とカリーヌの陰謀にしてやられたのです。 「アニエス、もう一度聞く。お前が本当に虐めたのか?」  お父様、本当のこと言いたいけど罪を認めれば自由になれる気がするの。だってわたくしはケヴィン様と結ばれたくないのです。  ──二年前の貴族院時代、わたくしは何度もケヴィン様にカラダを求められそうになりました。 「僕らは結ばれるんだ。アニエス、いいだろ?」 「ケヴィン様、なりません。やめてください!」  幼い頃から決められた婚約。王太子である彼との結婚は将来王妃になることを意味する。だからわたくしは最大限の英才教育を受けていた。武術もその一つ。無理矢理襲ってくる彼を(かわ)すのは容易なことだった。  それでも諦めきれない彼は不意を突いて背後から襲ってきた。けれどもそれは大きな過ち。わたくしではなくカリーヌを襲ったのだ。彼女はわたくしのふりをして彼を受け入れてしまう。  だってそっくりだから見分けがつかないのは仕方ない。問題はそのあとだ。カリーヌがカミングアウトすると最初は動揺してたけど結局妹との関係を断ち切れず、わたくしに内緒で付き合っていたのです。いつしか情がうつり、婚約破棄して乗り換える策略を練っていたのでしょう。  あの娘ならやりそうなことね。  双子の妹カリーヌ……彼女こそ性悪の令嬢だ。要領と愛想だけで生きてる上昇志向の強いオンナ。姉であれば将来の王妃、妹なら良くてどこぞの公爵夫人。何故自分が妹なの? って思ってるに違いない。双子は後に出生した方が胎内に近いから『姉』なのよ。先生に聞いたから間違いない。貴女が先に取り出されたのです。 「……間違いありません」  この状況から早く逃れたい。わたくしは一切合切(いっさいがっさい)言い訳をせず罪を認めた。  ああー、と落胆の声が聞こえてくる。お母様がショックで倒れそうになった。それをお父様が支えている。何も言葉にならないようだ。 「陛下、婚約破棄の件、宜しいでしょうか?」 「弁明はないのか? アニエス」 「何もございません」 「残念だ。君ほどの才女を手放すとは……」  わたくしは下を向くしかない。 「ただ、僕はオードラン公爵家との関係を壊したくはありません。そこでカリーヌを婚約者として迎えたいと思います。陛下、どうかお認めください」 「アニエスはどうするのだ?」 「はい、彼女はペチェア島への流刑が相応しいかと」  島流しか……。まあ王都には居られないよね。って、ん? ペチェア島って、あっ、あの御方の領地!? 「ああっ、娘が島流しだなんて……ううっ」 「お母様、泣かないでください。ケヴィン様、お願いです。どうかご慈悲を……せめてお姉様には暮らしやすいご配慮を」 「おお、カリーヌ、君は優しい人だ。分かったよ。島からは出られないが特別待遇を約束しよう」  ここサロンでは、わたくしに裏切られた悲しみや怒り、呆れなど様々な感情が入り乱れている。  ケヴィン様や愚妹の魂胆もミエミエ。だけどわたくしの絶望的未来は変えられたのだ。彼と一緒になるくらいなら一生島で暮らした方がいいに決まってるわ。  だってペチェア島にはジェラール第二王子様がいらっしゃるもの。わたくしの初恋の人が。
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