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「縁談? なんだよそれ」
「葉山さんって覚えているかしら。何年か前に家族で会ったでしょう? 院長が隼人のことを好いてるらしいのよ」
「ああ……」
ポテチを口にしながら、おぼろげな記憶を手繰り寄せる。
都内の一等地に立つ『葉山心臓研究病院』――循環器内科、心臓血管外科、心臓リハビリステーションに特化したその病院は、世界でも注目されている最新設備を揃え優秀なドクターが集まっていることで有名だ。
院長の葉山さんは快活でとても話しやすく、他愛のない話で盛り上がった記憶がある。娘さんは確か俺と同い年で大人しい感じだった。
「父さんを追いかけるの、やめたら?
そっちの病院に行けば、若くて海外戻りの奇抜なドクターもうじゃうじゃいるだろうし、楽しそうだと思うけどね」
佑馬は「それに院長になれるかもよ」と付け足し、冷やかすように笑った。
その通りだとは思うが、俺は父親が現役の時に技術を盗みたいのだ。そしていずれは超えたい。
(一番は朱莉と結婚できなくなるだろ……まだ付き合ってもいないけど)
「うちの大学病院だってそんなに悪くないと思うけどな」
そう俺が呟くと、母さんはふふ、と笑う。
「それは微妙なところよね。院長が真っ黒だから危険よ? 父さんたちがいるうちはまだ大丈夫だとは思うけどね」
佑馬はそれを聞いて鼻で笑っている。
詳しくは知らないが、上層部では院長と副院長との激しい派閥抗争があるらしく、父さんも巻き込まれているようだった。横暴な院長を宥めながらなんとか回しているらしい。
(医者の卵が首を突っ込む話じゃない。俺は今の場所で自分のやるべきことを全うするだけだ)
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