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そう自分に言い聞かせ、俺は約一カ月に及ぶ小児科での研修に没頭した。
まともに食事できないほど忙しい日々が続いたが、同じ空間に朱莉がいれば、不思議と疲れを感じなかった。
「隈すごいことになってるけど、大丈夫?」
「ありがと。朱莉もだけど」
「!?」
頻繁ではないが、バレないよう小声のやり取りも楽しかった。
彼女の真面目な仕事ぶりも、子供に向ける優しい笑顔も全部小児科に来て初めて見ることができたし、俺は俺で小児科の仕事が性に合っていたのか、子供に好かれることが多かった。回ってきた科の中で一番、明るい気持ちで過ごせたのは事実だった。
『はーい、みなさん! 今日は子供の日です。パンダのパン男君が遊びに来てくれましたよぉ』
「わーい」
研修終了間近、朝カンファレンスを終え小児科の廊下を歩いていると、遊戯室からマイクの声が聞こえてきた。
看護師一人と着ぐるみパンダが、集まった子供たちに画用紙で作った兜と折り紙で作った花束を渡している。
(朱莉か……この前着ぐるみになるって言ってたけど、まさかパン男になっているとは)
オーバーリアクションの彼女を眺めながら笑っていると、パン男のつぶらな瞳と目が合う。やば……と思った時にはすでに手遅れで、こちらに向かって手招きしてきた。
「(隼人、いいところにいた! ちょっとこっちきて!)」
「……はい」
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