第一章 公正中立Jの妻の条件

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 大知さんの職業は裁判官で、彼の異動の内示が出る頃を見計らって結婚を決め、仕事を退職するタイミングの関係で、彼より少し遅れて実家から新居へ引っ越した。  思い描いていた新婚生活とは程遠いが、大好きな彼と結婚できて私は幸せだ。  ただ、大知さんは違うんだろうな。さっきのぎこちない空気が物語っている。元々彼は私の姉と結婚する予定だったから。  父が裁判官、母は難関国立大学の法学部の教授、四つ年上の姉は弁護士事務所でパラリーガルをしている。  つまり私ひとりを除いて我が家は皆、法律業界に身を置いているのだ。  大知さんは母の教え子であり、彼の祖父が大学の教員をしていて母の恩師でもあった。  学部生の頃から裁判官を目指す大知さんと、夫であり裁判官である父を母が引き合わせ、そんな不思議な縁で彼と我が家との交流が生まれた。  母はもちろん、裁判官を目指している真面目で優秀な大知さんを父はすぐに気に入った。  大知さんのご両親が仕事の都合で外国暮らしをしていて、幼い頃から彼は祖父母に育てられ、今も一人暮らしをしているという事情も合わさり、うちの両親は彼をなにかと気にかけている。まるで実の息子のように。  自宅に招くほどの仲になって、その流れで彼と私たち姉妹も必然的に彼と顔見知りになった。  といっても大知さんはいつも父や母、そして姉と専門的な話で盛り上がっていて、私は会ったときに軽く挨拶を交わす程度だった。
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