第一章 公正中立Jの妻の条件

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 姉の万希(まき)は私とは正反対で、背が高くてスタイルもよく、聡明で溌溂とした美人だ。  ぱっと目を引く外見でありながら文武両道で、いつも多くの人の中心にいて慕われている。大知さんと同じだ。 『千紗ちゃんは万希ちゃんの十分の一なのね』  できすぎる姉に対し、外見も成績も要領さえあまりぱっとしない私を憐れんでか、冗談なのか、親戚の間で名前の漢字に関して昔からよく言われた。  もちろん両親はそんなつもりで名付けたわけではないし、その都度強く抗議してくれた。  けれど何度も言われ続け、その言葉がすとんと心の中に落ちて、根を張るまでになった。  子どもが好きだったので教育学部に進学し、幼稚園教員と保育士の資格を取得して卒業後には念願の幼稚園で働き出したが、その努力や結果さえ法律に携わる他の家族を前にすると、落ちこぼれ扱いだ。  大知さんと知り合ったのは高校生の頃。そのときに会話の流れで、恒例のように親戚から言われるセリフを彼に伝えてしまったのだが、彼は私の名前を褒めてくれた。  千という字の由来まで添えて。 『千紗。俺は好きだよ』  名前について言われたとわかっていながらも単純な私はその言葉に救われて、あっさり彼に恋に落ちた。  元々男性は苦手なのだが、穏やかで紳士的な彼は特別だった。  けれど、これは不毛で無謀な感情だ。わかっている。彼にとって私は、それぞれ尊敬している人たちの娘であり、同じ法曹界に身を置く姉、万希の妹といった認識だ。
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