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大知さんが姉と並ぶだけで絵になって、立場的にもお似合いだと何度も思った。それは両親も同じだったのだろう。
どこまで本当なのかはわからないけれど、両親が大知さんに恋人の存在を尋ねても彼の答えはいつも『いない』だった。
それに続けられるのが『なら、うちの娘はどうだい?』という決まり文句で、その娘が姉を具体的に指しているのは、話の流れや内容でよくわかっていた。
私は最初から選択肢にない。年齢的にも立場的にも。そしてそんな両親に対し、大知さんははっきりと拒否の意思を示さなかった。
大知さんが判事補として任官された東京地裁に二年半ほど勤めたのち、彼は関西の地方裁判所へ転勤となった。
仕事柄、数年ごとの転勤は必須でそのエリアは全国にわたる。癒着などを防ぐためにも慣れる頃には新しい土地への異動を繰り返すので、少なくとも三、四年は物理的に彼と離れる。
大知さんはもしかするとその間に恋人か、はたまた結婚するかもしれない。彼を諦めるチャンスだ。
私もこれを機会に恋人をつくろうと意気込んだが大学では卒業制作や実習に時間を取られ、就職が決まったら決まったで、新任の幼稚園教諭としていっぱいいっぱいの毎日を送っていた。
子どもも保護者も十人十色で、そのつど先輩の教員に相談しながら適切な対応をとるように心がける。
間違いなく充実はしていたけれど、異性と付き合う余裕が、精神的にも物理的にもまったくなかった。
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