第一章 公正中立Jの妻の条件

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 父や母から聞かされる大知さんの近況として予想していた類の話題はまったく出ず、彼もひたすら忙しくも充実している日々を送っているという内容だった。  そんな彼の様子を知って、私も頑張ろうと力をもらう。  そして秋が深まり紅葉が見頃を迎えた季節に、来年辺りに、大知さんは転勤になるだろうと目星をつけた父が、姉と大知さんのお見合いの席を設けると言い出した。  彼は父の話をすんなりと承諾した。おそらく姉を想っていたのだろう。  ある意味、予想していた展開だ。結局、恋人どころか彼以外の人に恋をするのも叶わなかった。  たくさん自分に言い訳したものの本当は大知さんへの想いが断ち切れなかった。それももう終わり。  いい加減、彼に対する恋心を消さなくては。もしも姉と結婚したら、彼とは義理の兄として付き合っていかなくてはならない。  今度こそ私は彼への想いを必死に消そうと決めた。  ところが姉が大知さんとの結婚、もといお見合いをあっさり断ったのだ。よく聞くと、その頃付き合いだした相手がいて、結婚も意識しているという話らしい。 『だから千紗が私の代わりに大知くんとお見合いしてよ』  ホッとしたのも束の間、さらに姉の続けた言葉に目を剥いた。  あまりにも予想だにしない提案に、すぐになにを言われたのか理解できない。姉が駄目ならその妹で、なんてそんな簡単な話ではないはずだ。 『裁判官の結婚相手は、警察官と同じで家族を含めそれなりに身辺調査をして素性や過去の経歴を調べる場合が多いでしょ? その点、私たちは必要もないしね』  混乱する私に姉が冷静に説明する。
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