第一章 公正中立Jの妻の条件

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『あの、大知さんは本当に結婚相手が私でいいんですか?』  お姉ちゃんではなく、とまでは言えなかった。私の開口一番の問いかけに大知さんは目を瞬かせる。 『千紗が俺でかまわないなら』  真面目に返され、慌てて付け足す。彼に不満があると思われるのは嫌だ。 『わ、私は大知さんが相手で嬉しいです』  勢いよく早口で捲し立てたが、すぐに冷静になり顔が熱くなった。窓からよく見える紅葉のように真っ赤になっていると確信する。まるで告白だ。  大知さんは父に勧められ、姉が断ったから私とお見合いしているのに。  フォローすべきかと迷っていると先に大知さんが口を開く。 『ありがとう。俺も嬉しいよ』  目を細めた優しい表情に、もうなにも言えなくなった。大好きな人の妻になれるなんて、世界一幸せ者だ。 『結婚したら……いい奥さんになるよう頑張りますね』  彼に対してというよりも自分自身への誓いだった。父を見てきたから、ある程度の事情は理解している。仕事の大変さや、裁判官ならではのいくつもの制約も。  私たちが幼い頃、父の転勤に毎回ついていっていたが、母が大学での就職を決めたのもあって父は単身赴任する形になった。  それでも学校が長期休みのときは父のところにいって家族一緒に過ごしたりした。  その生活に不満があったわけでもない。それが私にとっては当たり前の形だった。  お見合いをしてからしばらくして、二月下旬に父の予想通り大知さんの転勤が決まったと彼から連絡があった。
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