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最悪な出会い
─────2014─────
6月も終わりに近付き夏の暑さが顔を覗かせる。
しかし、まだ梅雨独特のジメジメした空気も混在して直斗の肌に纏わり付く。
「……あっつぅー……」
制服のワイシャツのボタンを全開にして、団扇変わりの下敷きで扇いだ。
親友の康平と渡り廊下の階段で涼んでいる。
次の授業が体育なのか校庭へ向かう下級生達へ視線を向けると
「藤井センパーイ!」
体操着の女子生徒数人が手を振り、直斗がそれに笑顔で手を振り返すと「キャーッ」と歓声が上がった。
「…相変わらずモテてんなぁ…」
康平が自分も下敷きで扇ぎながら、コーラを飲んでいる直斗を恨めしそうに睨みつけた。
「やっかむなよ」
するとその場を動く様子もない2人の耳に予鈴のチャイムの音が届いた。
「……次の授業…何だっけ?」
康平が面倒くさそうに尋ねが
「えー……知らね」
それ以上面倒くさそうに直斗は口にした。端から出るつもりなどない……。
「英語だよ」
突然後ろから声を掛けられ、その言葉と共に直斗の頭に教科書が振り下ろされた。
「──痛ってぇなぁ……」
直斗が頭を押さえて振り返ると
「俺の授業をサボろうなんて10年早いわ」
体格の良い、人の良さそうな教師の水野が笑いながら立っていた。
「サボるなんて言ってねーじゃん…」
「なら早く教室行け!もう本鈴なるだろ」
そう言って自分より遥かに背の高い直斗の頭をガシガシと撫で、笑いながら通り過ぎていく。
人一倍手の掛かる直斗を常に気にかけ、可愛がっている唯一の教師だ。
直斗もそれを解っているのか、水野にはそれなりに大人しく従っていた。
通り過ぎる水野の後ろから初めて見る、スーツ姿の若い男が歩いていて直斗は“何となく”その横顔を見送った。
すると、すれ違いがてら直斗を見てその若い男が『クスっ』と笑った。
「……なんだアイツ……」
直斗が面白くなさそうに呟くと
「今週から来てる教育実習生だろ。イケメンだって女子が騒いでたじゃん」
康平の説明を聞いているのか、直斗がその背中を睨みつける。
するとその『イケメン』が振り返り、再び直斗を見て笑ったように見えた。
「……気に入らねぇな……」
直斗の言葉に
「おいおい……お前いい加減にしとかないと3年のここに来て退学とか笑えないぞ」
康平が肩を竦めて呆れた様に笑った。
とにかく気が短く、“気に入らない”となれば相手が教師であれ喧嘩を売っていくのを何度となく見ている。
「ほら……サボるつもりはねぇんだろ?」
まだイラつく様に背中を見送っている直斗の肩に腕を回すと、康平は半ば強引に教室へと向かった。
「今の子は………?」
「ん…?藤井のことかな?これから行く3年4組の子でね。まあ……今まさに反抗期真っ最中ってとこですよ」
水野が人の良さそうな笑顔を見せた。
「ちょっと喧嘩っぱやいとこはあるが……根は良い子ですよ」
どこか父親の様な温かい笑顔が、“藤井” と言った生徒を可愛がっていると分かる。
「そうなんですね。覚えておきます」
そう言うと、紡木も水野の笑顔につられる様に笑った。
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