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「紡木」と紹介されたその教育実習生は、海外留学の経験があるとかで流暢な英語を披露してみせ、本場の英語だからと水野が早々に授業をさせた。
直斗は頬杖をつきながら、ついさっき自分をイラつかせた顔を見つめる。
──キレイな顔してんな……。
真っ白い肌に大きく印象的な淡い茶色の瞳。
真っ直ぐ通った鼻筋と赤い唇……。
───女みてぇ…………。
何処か遠くの血が混ざっている様にも見えるその顔を直斗がぼんやり見つめていると、紡木がこちらを見て目が合った。
─────「クスっ」─────
また笑った。
それにカッと頭に血が上った。
───さっきから人のことバカにしやがって……
紡木にすれば全くそんな気は無いのかもしれないが、直斗から見たら“バカにして笑っている”様に見えてならなかった。
耳触りの良い声が静かな教室に響く中、直斗は立ち上がりドアに向かって歩き出した。
『……なにかありましたか?』
紡木が英語で質問すると、ただでさえ直斗が突然席を立ったことでザワつき初めていた教室が一層ザワついた。
「藤井!席につけ!」
窓際で授業を見ていた水野が直斗に向けて怒鳴った。
しかし全て無視し教室を出ようとしていた直斗に
『私の授業が気に入りませんか?』
再び紡木が英語で問いかける。
そこで直斗はやっと立ち止まると
『俺が気に入らないのはあんただよ』
紡木にも負けない程の流暢な英語で返し、その澄ました様に見える顔を一瞥すると当然のようにドアを閉めた。
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