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「ゼキ様、これあげる! ゼキ様が勝ったお祝いのために摘んだの。これから会いにいかなくっちゃ、でもゼキ様ってどこにいるんだろうって思ってたけれど、ゼキ様のほうからこっちに来てくれるなんて! あたしってライベルクで一番幸運な子供だね!」
妖精たちが歌い遊ぶ時のような無邪気な声で言った。小さな手には野花の束と花冠が握りしめられている。少女は爪先立ちになって、それをゼキへ差し出すのだった。
ゼキの瞳の中で、少女の金色の髪が揺れていた。
それまでなにか思いつめたように馬を走らせていた騎士が、初めてふと表情をなごませた。
「ありがとう」
幻のようなひとときであった。
外套を翻してゼキ将軍が下馬し、農夫の子の前に跪く。そして小さな花束を受け取ったのだ。
花冠も押しつけられるが、そちらは少女の金色の頭にそっと乗せられた。
「冠ならば、君のほうがよく似合う。あのお城にいらっしゃる、この国でもっとも尊いお方も、金色の髪をしておられるんだ」
あっけにとられた少女であったが、冠の感触を確かめるように両手で触ると、やがて満面に笑みが広がっていく。
母親が駈け寄ってきて謝罪する前に、他の農民たちに我も我もと取り囲まれる前に、ゼキは再び馬上の人となり走り去っていた。
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