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三
床も壁も石造りであるせいか、外よりもひやりとした空気が溜まっている。
そんな美しく静謐な王宮の廊下を、ゼキは早足で歩いていた。
鍛えられた長い脚がぐいぐいと大股で突き進むのだから、普通の人間にしてみれば走っているのとほとんど同じような速度といっていい。しかも表情は険しく、武官の正装とはいえ鎧も剣も身につけており、まるで苦しい戦の最中からそのまま抜け出してきたかのようなゼキ将軍の姿であった。
見張りの兵、通りすがりの文官や侍女らは、あわてて道を譲るのがやっとで、あとは外套の背にある王の紋章を呆然と見送るしかなかった。
「止まられよ、ゼキ将軍!」
目的の部屋はもう間近に迫っていた。
それまで誰に呼び止められることもなく進んできたゼキであったが、厳しい声とともに現れた三人の兵士に行く手を阻まれ、立ち止まった。
中央のひとりが前に出て、高い声で叱責する。
「ゼキ将軍、ここより先は国王陛下のご寝所。たとえ陛下のご信任厚きあなた様といえども、無断で踏み入ってよい領域ではございませぬぞ」
らんらんと燃える六つの瞳。意外なことに、兵士三人は皆うら若き乙女であった。
しかし彼女たちの持つ気迫は、もしかするとゼキが遠征で連れていったどの男たちよりも勝るかもしれない。さすがに槍の穂先をゼキへ向けはしないが、彼が少しでも不審な動きを見せれば、いつでもそうする覚悟だろう。
しかし、勇将の誉れ高いゼキ将軍はたじろぎもしない。
目線は女戦士たちを飛び越えて、彼女らの背後にある絢爛豪華な造りの扉へ向けられている。
表情から険しさを消し、静かな声で言った。
「通してくれ」
「できませぬ。陛下はお疲れであらせられます。一体陛下へ何のご用です? こたびの遠征についてのご報告でございましょうか? ともかく日を改めなさいませ」
「それはできぬ。だが、決して長話はせぬと約束する。わたしはただ、国王陛下のご病気のお加減を伺いに参っただけだ。それだけを胸にヴェルドへ帰ってきた」
勇ましい乙女たちは驚き、鼻白んだ。ゼキの台詞は予想外のものであったのだ。
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