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四
「まぬけな夢を見てしまった」
王の寝室は柔らかなオレンジ色の光に満ちていた。
騎士は静かに部屋へ踏み入り、重厚な扉を後ろ手に閉めた。
ベッドの上の寝具がやや乱れているが、主の姿はそこにはない。
寝台の向こう側、沈む夕陽を臨むバルコニーを見る。
そこには少女がひとり背を向けて立っていた。
彼女の目線のずっと先には、風と戯れるように飛ぶ若い梟の影があった。
「夢のなかで、わたしはたぶん鳥だったのだろう。あんなふうに翼が生えていて、好きなだけいくらでも飛ぶことができた。これでどこにでも行けると思うと嬉しかった。……わたしの行きたいところは、ただひとつしかなかったけれど」
少女はぽつぽつと語る。
鳥になった自分は、遠征中のゼキを追って、北の国境線へ向かったのだと。
しかし、見つけたゼキは戦の最中にいた。森林の深みで兵を指揮し、魔物の群れと戦っていた。木よりも高いところで寂しく飛んでいる鳥に気づくはずもない。
「わたしはなぜあの場所へ飛んでいってしまったのだろう。そなたがいつでもわたしのことを待っていて、舞い降りれば存分に甘えさせてくれるとでも思っていたのだろうか? あの危険な魔境へ行けと命じたのも、異形の者どもと戦えと命じたのも、わたしだというのに……」
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