下賜の外套

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「陛下!」  ゼキが叫んだ。  外套を翻して腕を伸ばし、華奢な少女の肩を掴む。話し終えるのとほぼ同時に、痩身が力無くふらついてバルコニーから飛び出しかけたのだ。  陛下と呼ばれた少女はまともに体勢を正すこともできず、そのままトンと騎士の胸板にぶつかった。  血の気のない顔は、ちょうど寝所の前で見た冷たい石の神像ほどに白い。そして、かつて名工が魂をこめて彫刻したであろう女神エッダの造作よりも、彼女は遥かに優れて美しいのだった。  驚くほど軽い身体を、ゼキは抱き上げて部屋に戻ろうとする。少女は抗議の呻き声を洩らした。 「待て、待ってくれゼキ。わたしの梟がまだ飛んでいる。もう少しあそこにいてやらないと」 「陛下のお姿が見えなければ、自分で勝手に鳥舎に帰ります。それくらいの(しつけ)は済ませておられるのでしょう」 「そなた、しかとわたしの話を聞いていたか? たとえ自由な翼を持とうとも、人という温かな止まり木がないのでは、なんと悲しく寂しいことか! そういう寓話だったではないか」 「はい、あなたが墜落なさるという縁起でもないお話でした。智神エッダの化身と誉れ高き賢王が同じ愚を二度犯そうとなさるとは、まだ半分夢の中におられると見えますな。寝ぼけて寝所のバルコニーから転落死などされては、まぬけと笑われるだけでは済みませぬぞ」  辛辣な臣下の台詞にすぐさま反撃しようとするが、もはや立っていられないほどの倦怠感が思考を邪魔したらしい。  ベッドのほうへ運ばれつつ、少女は最後の抵抗のように白い指でカーテンの端をつまむ。それにもゼキが構うことなく進んだため、カーテンはさらさらと広がり、夕陽を半ば遮断した。
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