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下賜の外套
序
ライベルク王国の騎士ゼキは、その瞬間を永遠に忘れはしないだろう。
「ゼキ。わたしはそなたに、この国を背おって戦ってもらいたい」
過ぎし日に、ゼキは若くして将軍の位を賜った。忠誠を誓う国王の足元に膝を付き、恭しく頭を垂れる。
国王は頷き、記念品をみずからの手でゼキへ差し出した。
武官が名誉を授かるとき、ともに特別製の武具が下賜されるというのがライベルク王国の慣例である。――勇敢に敵陣へ攻めこむ者には剣や槍、城塞の守りに長けた者には盾や甲冑。力自慢には巨大な戦斧、騎馬に秀でた者には駿馬といった具合だ。
けれど国王がゼキへ贈ったものは、それまでまったく前例のない品であった。
上等な生地で織られた外套を押し戴き、わけもわからぬまま恐縮し続けるゼキに、王は白い指で指し示してみせた。
「ここを見ておくれ」
外套の背には、美しくも力強く、この国の紋章が刺繍されていた。しかも使われている糸の色彩は、王宮に立つ旗と同じものであった。
ゼキは目を見開き絶句した。
武神と智神の子孫と言い伝わる国王は、それこそ人離れして神々しく、冷ややかなまでの気品と風格を持つ王者と囁かれている。けれど、ゼキへかけられた言葉には優しさがにじんでいた。
「我が王国の誇る勇将ゼキよ。そなたには、わたしの旗とこの外套とを、まったく等しいものと思って身につけてほしい」
ライベルクの国章。それはけっして敵の手にかかり、踏みにじられ、汚辱に塗させてはならぬ旗章である。
ゼキの背にそれが現出するとすれば、彼の身体そのものが国王の軍旗の化身としての意味合いを持つだろう。敗れて斃れ、戦場の泥濘と成り果てることは断じて許されない。
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