下賜の外套

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 ゼキが胸元から取り出したのは、遠征先で最後に受け取った手紙であった。  丁寧に折り畳まれた紙片を開いてみせる。中には何も書かれておらず、ただの白紙だった。  アウレリアは気まずそうに目を逸らした。 「ああ、それか……」 「ペンも持てぬほどの危機が陛下を襲っているのではと、肝を冷やしました。国家転覆の非常事態が王宮で起こったか、あるいは陛下ご自身が悪い病でも得られたかと」 「そうか……」 「陛下、なぜ目を逸らされます? なんでもなかったならばともかく、まことにご病気なのでしょう」 「いや、もうほとんど治りかけている。さっきふらついたのも病気だからというより、単に寝てばかりで体力が無くなってしまったからだ。……おかしなことを言うようだが、そなたがそんなに必死の形相で帰って来るのなら、わたしももっと儚げに、息も絶え絶えという様子で出迎えたかったものだな」 「ご勘弁ください。それでは本当にわたしの生命が保ちませぬ」 「ああもうわかった、もうよいではないか。だから、ゼキ、早くその手紙をしまってくれぬものかな……」  先ほどまで真っ白だった頬にほのかな赤みが差しているのを見て、ゼキはようやく王が照れているのだと気がついた。
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