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――アウレリアにはある持病がある。
一度発症すれば、意識も虚ろになるほどの高熱が十日は続くという危険な病だ。
おそらくゼキへ手紙を送った時には、本当に息も絶え絶えで、まともに字も書けないという状態だったのだろう。
それでも無理をして起き上がり、白い手紙を梟にくくりつけ、いつもと同じように大空へ放ったのはなぜか。自分がどのような状況にあるかを、ゼキならばすぐに悟ってくれると信じたからではないか。
国王といえどもまだ十七歳の少女だ。心配と励ましの言葉が並んだ返事が欲しかったのかもしれない。また、一刻も早く王都へ帰ってきてほしいと願ったのかもしれない……。
図らずもその両方を叶えてしまった自分の行動を思い返し、ゼキも耳のあたりが熱くなるのを感じた。
手紙をしまうと、ようやくアウレリアがこちらを見た。眉の下がった申し訳なさそうな顔をしている。
「遠征中のそなたにいらぬ心配をかけてすまなかった。謝らねばならぬと思っていた」
「いえ……。陛下がご無事でなによりでございました」
本心からそう言ったとき、ゼキは自分でも声や表情から一切の険が消え失せていることがわかった。
ゼキが怒っていると主張し続けたアウレリアも、ここでようやくほっとしたように笑った。それは王としての威風を抜きにした、十七歳の少女らしいあどけない笑顔であった。
それを見た時、穏やかさを取り戻したはずの騎士の緑眼に、御しがたい熱の片鱗がうつろった。
その暗い光の宿りにまだ気づかぬ少女へ、ゼキは跪いたままこう言った。
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