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「待てゼキ、まだ魔女にもらった解熱薬が余っている。よく効く薬だ。人を呼ぶ必要はない」
「ですが」
「わからぬやつだな。わたしは見飽きた医師の顔などよりも、五十日ぶりのそなたの顔をずっと見ていたいと言っているつもりなのだが。それに、そなたとてもったいないとは思わないか? 五十日もわたし抜きでよくがんばったのだから、それなりのご褒美が欲しいだろう?」
「……ともかくその調子では、まだまだ辛いスープなど口にされるべきではこざいませぬな。刺激物は弱ったお身体によろしくありません」
急に別のことを口走ったかと思うと、ゼキは項垂れてベッドの縁に腰かけた。
顔を見せろというのに背を向けたままでいるので、可憐な国王は抗議の声を上げる。ぼろぼろの外套と自分の紋章ばかり見ていてもおもしろくはない、と。
「なんということを……。この外套はわたしにとって一番大切なものです」
「そなたこそなんという酷いことを。一番大切なのはこのアウレリアだと、正直に言ってほしいものだ」
「騎士として分をわきまえぬ発言はなかなか致しかねます」
「やれやれ、まったく手のかかる仔犬だな。せっかくのふたりきり、しかもこの状況だというのに、そなたは本当に悪いことを考えつかぬ男らしい」
「悪いこと……?」
「教えてあげようか」
アウレリアは身を起こし、膝立ちになってゼキへ近づいていく。
大きな背中に流れる外套を少し引っ張ると、ようやくゼキは振り返った。
もう熱が出てきたのか、アウレリアはかなり赤面しており、琥珀色の瞳も潤んでいる。その眼を泳がせつつこう言った。
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