漆黒の花

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漆黒の花

     一  狩りは王族や貴族に好まれる高尚なスポーツだ。  獲物を仕留める弓の腕前を始めとして、馬術に優れていること、森と一体となる集中力や観察眼、実に様々な技術が要求される。  そして何より、それは生命のやりとりであるから、人の勇気が試されてこよう。その人が優しくあればあるほど、罪のない無垢な禽獣を殺すという覚悟は重くのしかかってくる。  また、殺される側とて必死だから、逃げるばかりでなく、時に驚異的な反撃を仕掛けてくることもある。 「こういうの、油断大敵っていうんでしょう? ああ、このすごく緊張する感じ、きっと戦場の空気と似ているんだろうなぁ」 「マヌー! そう思うなら静かにしていろ。狩りにしろ戦にしろ、策を敵に気取られたら終わりだぞ」  深緑の茂みに身を隠しながら、若い青年が美しい川辺を見据えている。  浅い水面に脚をつけ、餌の小魚を探し歩く青い鳥は、幸いまだこちらに気づかぬようだ。  青年のヘーゼル色の目が光った時、鳥が突然激しく鳴いて身をよじらせた。  大きな翼を広げ飛び立とうとするが、もがけばもがくほど、細い脚に絡みついた罠はきつく締まっていく。
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