漆黒の花

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「あなたの武勇は知っています。ですがそれを誇るかのように、こんなに殺さなくともよいでしょう」 「いや、獲りすぎということはない。おまえたちと違い、俺は数年前までもっぱら狩りをして暮らしていたのだから、間違いはせん」  青と金を主とする派手な服を嫌味なく着こなし、腕組みして立つブリッツは堂々として尊大だ。その一方で、十ほど年少のミカリーにもの申されても気を悪くした風はない。  それを承知しながら横に並び、ミカリーはさりげなくその表情を(うかが)った。  ブリッツはライベルクの出身ではない。元は騎馬民族ハイナの族長という人物だった。  服装も容姿も、ライベルク人とはやはり趣が異なる。髪は青みがかった黒だが、肌はいくら日に当たっても雪のように白いままで、整った顔立ちも相まってその対比が美しい。  ミカリーはひそかに注視した。ブリッツの鮮やかな青い瞳に、戦火に失われた故郷の景色が映っているのではないかと疑ったのだ。  しかし、実際に彼が見ているのは動かぬ動物たちだけだった。 「別に今日すべて平らげる必要もないぞミカリー。干し肉にすれば糧食にもなる。羽や皮、角も欲しかった。これでも必要な分をしかと鑑みて、最低限の狩りをしている」  マヌーはせっせと作業を進めている。軽いものは三頭の馬の鞍に分担してくくりつけ、猪は自分の馬に乗せ、そして鹿は丸ごと自ら背負った。  自分よりも重いものを担ぎながら、鼻歌まじりにてくてく歩く少女を、ミカリーは複雑そうに、ブリッツはおもしろそうに眺めている。 「そもそもライベルク王国にはなりゆきで流れ着いたようなもので、当初は何の愛着もなかった土地だが、こういう楽しい情景もある。ゼキについてきて正解だったな」  そんな思いを口には出さぬまま、ブリッツは軽やかに馬へ飛び乗った。 「さて、ライベルク王家に仕える兄妹よ。お前たちの大切な主君の元へ戻るとしよう」 「何を他人事のように。あなたとて、今や王家の禄を食むお方です」  若き軍師ミカリーは念を押すように言うと、自分も馬に乗り、奔放な将軍を追うべく手綱を掴んだ。
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