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やがて、ゼキは馬首を宿営地の方角へ直した。
と――。
常歩で森の中を進む下賜の外套めがけ、音もなく、風のように早く距離を詰めゆく影がある。
ゼキは戦士の勘で気配を察したが、剣を抜きはしなかった。代わりに片腕を水平に伸ばして軽く振り返った。
そこへ舞い降りたのは、まだ若い一羽の梟だった。翼を折り畳み、甘えて擦り寄る梟を、ゼキは優しく撫でてやった。
こうして時折、ゼキの周りを梟が飛び回っているのは、兵士たちの間でも知られていた。
強く精悍なゼキ将軍に、とぼけた顔をした梟が懐いているという光景は、戦に疲れた者たちにふとした笑いと安息をもたらしてくれるのだ。
しかし、まさかその梟が、ライベルク国王に手ずから育て上げられた誉れある者たちだとは――しかも、国王からの「あくまでも個人的な手紙」をゼキの元へ運んでいるとは、夢にも思わないことだろう。
それは国王の意外な趣味だった。あるいは悪癖といってもよい。
翼持つ使者は、火急の用や機密事項をやりとりするために飛ばされることもないではないが、いつもはほとんどどうということのない情報をゼキへと届けている。
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