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二
宿営地を発ってから十日目の午後、ゼキの部隊は無事に王都ヴェルドへと帰還した。
兵士たちは王宮前の広場へ整列し、遥か頭上の豪奢なバルコニーを見上げた。そこに国王が現れて労いの言葉でもかけてくれるかと期待した者も多かったが、出てきたのは老いた左大臣だけだった。
少し肩を落としたが、左大臣の話を聞くと、皆すっかり元気になって喜んだ。国王の命により、出発前の銀貨十枚に加え、更に十枚が兵士全員に与えられると発表されたのだ。
男たちは兵舍で武装を解いた。ゼキは短いが心のこもった言葉をかけ、将としてずっと引き絞り続けた彼らの手綱をようやく解放してやった。
さっそく浮かれて街へ繰り出す者、休むこともなく故郷へ足を向ける者。事後処理を請け負った副官たちも、まずは兵舎の浴場で旅の汚れを落としてからという。
ゼキは平時用の下賜の外套を羽織り、王宮の方角へと戻ってゆく。馬上で受ける爽風が、洗いざらしの彼の髪をすぐに乾かしてくれた。
ライベルク王国は四季を持つ国だが、全体的に寒冷地域といってよい。
暗く長い冬が終われば春が訪れるものの、その期間は短く、天候も不安定だ。ライベルク人のあいだでは古くから、「落ち着きのないもの」の代名詞として春という言葉が使われるほどである。
しかしその時期も遠征中に過ぎ去ってしまい、今は清々しい初夏の季節であった。
ゼキ将軍が魔物を撃退し大勝利を収めた、という吉報がもたらされ、人々は熱狂的に兵士たちを出迎えていた。
街の至る所に大量の酒と新鮮な食物が用意されている。愛しい妻子や恋人が待っている者もいるだろう。王都の輝きと華やかさは、寂しい国境線で灰色の生活を送り続けた男たちを一気に天へ昇らせるかのようだった。
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