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翔馬と渉流 ①
「悪いな2人とも。手伝わしちまって」
「大丈夫です!これ、運べば好いの?」
「タツ、仕事はどうしたんだ?」
「休みを貰ったんだ。渉流さんこそ仕事は?」
「俺は今日に合わせて休みを取ってたんだ」
まるでキャンプにでも来てるかの様に楽し気にダンボールを運び出す桧山とは対照的に、黙々と雑誌や新聞を紐で束ねている大梧の表情は何処か浮かない様に見えた。
「兼村、ありがとうな。この前も当番代わってくれたって、翔馬から聞いた」
「別に大した事じゃないさ。彼奴、引っ越しの準備が間に合わないってボヤいてたからな」
「兼村さ~ん、こっち運ぶの手伝ってよ~」
「桧山、それ重いからいいよ」
「大丈夫。村上さんはそっちのベッドね~。買ったばかりなんでしょ」
悪戯っぽく笑う桧山に苦笑する。
引っ越すより先に届いてしまったベッドを、できれば誰にも触れて欲しくないと思っていたのがバレていた様だ。
「よし、じゃあ行こうか」
「出発進行!」
「着いたぞ。此処の302号室だ」
「へ~、けっこう洒落たマンションだね」
翔馬の運転で着いた新居となるマンションを見て、タツが少し羨ましそうに言った。
「何で引っ越し業者を頼まなかったんだ?ベッドも箪笥も2階まで運ぶの大変じゃね?」
「無粋なコト訊いちゃダメだよ?兼村さん。2人の愛の巣だよ?新品のベッドだよ?普通、誰にも触らせたくないでしょ」
「タ、タツっ…!」
「ふ~ん、そんなもんか?」と呑気に答える大梧と、頬を薄赤く染めて抗議する渉流が対照的で面白いな…なんて事を思いながら、段ボール箱を抱えた。
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