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「お待たせ。あれ?兼村、どうかした?」
トレーが見つからないからと、それぞれ両手にマグカップを持って渉流さんと一緒にまだ彼方此方に段ボール箱が積まれたままのリビングに向かうと、何だか怒ってる様な泣き出しそうな表情の兼村さんが、少し俯いているのが見えた。
「翔馬、兼村に何か言ったのか?」
「いや…」
「何でもない。翔馬に2人の惚気話を聞かされてただけだ」
「翔馬!お前マジで何話したんだ?!」
微かに頬を染めて村上さんの肩を強めに叩く渉流さんを笑いながら、チラリと見遣った兼村さんからはさっきの表情は消えていた。
村上さんと一緒に居る時の兼村さんは、俺が余り見た事の無い顔をする。
それが少し寂しくて悔しくて……本当は村上さんと二人だけにしたくないのが本音だ…
ふとテレビの前に置かれた写真立てに気づく。
ゆっくりと立ち上がり其処まで行って、その写真立てを手に取った。
「これ…」
「ああ、それか」
後ろから覗き込む様にして見たエリックさんが、少し照れ臭そうに笑った。
「何日か前に渉流と外で晩飯食ったんだ。2人共ちょっとイイ感じに酔っちまってさ…」
写真の中には、嬉しそうに楽しそうに笑っている村上さんと渉流さんが並んでいた。
「……2人共…すっごく幸せそうだね…」
素直にそう言った。
「…大梧が手伝ってくれて……桧山も一緒に守ってくれた渉流の笑顔だ。これからはもっともっと渉流を笑わせられる様に……2人で幸せになるんだ」
村上さんが後ろを見たのにつられる様にして俺も振り返った。
ソファの前で楽しそうに話をしている渉流さんと兼村さん。
兼村さんが渉流さんを揶揄っているのか、時折渉流さんが兼村さんを軽く叩いている。
「桧山は大梧が好きか?」
「うん…好きだよ」
強く、ハッキリと頷く。
「なら頑張れ。彼奴を…大梧を完全に堕とすのはけっこう骨だろうけど、…渉流も俺も桧山の味方だよ」
「…ありがとう、村上さん」
素直にそう言うと、村上さんが頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
それが擽ったく感じられて笑い返した。
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