9人が本棚に入れています
本棚に追加
大梧と竜義 ①
「ねぇ兼村さん、村上さんと渉流さん、ついに引っ越したんだってね!?」
「まだだろ?翔馬が引っ越したってのは聞いたけど?」
「え?そうなの?でも村上さんが引っ越したんなら…」
「雨宮はまだ無理だろ。翔馬が身元引受人になる手続きをしてるらしいから、それが済んだら一緒に暮らすんだろうけど」
「ふ~ん…渉流さん寂しくないかな…」
「……ならお前が一緒に居てやれば?」
「え?」
怒った様な拗ねた様な言い種に振り返ると、ぷいっとそっぽを向いて兼村さんはリビングを出て行った。
「ちょっ、ちょっと兼村さん!」
リュウが雨宮を慕っているのは解ってる。
其処には決して下心とか邪な想いが無い事も…なのに邪推してしまう俺は、何処まで心が狭いんだろう
「俺、明日は翔馬の引っ越しの手伝いで一日居ないからな」
「えっ?!聞いてないよ、そんな話」
「だから今言ったろ」
「一日って朝から晩まで?」
「そう、朝から晩まで」
「わ、渉流さんも一緒なの?」
「さあな。仕事じゃないのか?パン工場、今忙しいって翔馬が言ってたから」
冷蔵庫の扉を開け様とした手を、不意に後ろから握られて立ち竦む。
振り返ってくれない人の肩に顎を乗せ、ちょっとだけ嫉妬心を仄めかす。
「兼村さんって村上さんと仲良いよね」
「そりゃあ…同期だからな…」
「いろいろ相談に乗ってあげたり、…渉流さんとの事も力になってあげたんでしょ?」
「…親友…だからな」
「それだけ?」
「……何が言いたいんだよ」
「………」
「リュウ?」
「…俺も…明日手伝いに行く!」
そう言って兼村さんの背中からパッと離れる。
「はあっ!?お前、仕事は?!」
突拍子も無い台詞に振り返ると、リュウはさっさと寝室に向かいながら
「ほら、兼村さんも早く寝よ。明日は朝から力仕事になるんでしょ」
子犬みたいな顔で振り返り「早く早く!」と俺を呼んだ。
最初のコメントを投稿しよう!