取材と停電

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 奇しくも、同僚から「これからどうすればいいかわからない、仕事は好きだけれど会社に行くことを想像すると身体中が痙攣する」と、憔悴したメッセージを受信した夜であったと、朝田さんは語る。  当時、その同僚は精神的に、傷ついた状態にあった。 「物音は一回きりだったんですが、どうもアレがきっかけで……」  ぱちん。  取材をしていた、チェーン系カフェの照明が突然消えて、あたりは暗闇に包まれた。  ひっ、と朝田さんが身を縮ませて震える。  ざわざわと不穏な声が、そこかしこのテーブルで発せられる。 「ブレーカーが落ちましたので、ただいま対応中です。しばらくお待ちくださいませ。申し訳ございません!」  ハキハキとした声で、男性の店員が客席へ向かい呼びかけた。  そんな声も上の空で、私は薄闇の中、臆病とは知りながら、こんなことを考えてしまった。  ……書けるかどうかわからない。  目の前でビクビクとしている朝田さんを見ていれば、もしかしたらというリスクがどうしても頭をもたげてしまう。  己の身に降りかかるわけないという思い込みが、妙に脆く感じてきて仕方がない。  まさか、ねえ……。  キー……ン、キー……キー……キーン……。  痛くなるほ甲高い耳鳴りが不意に襲ってきて、右耳を抑える。それでも性分というか、悪いくせというか踏み込みたくなる欲求は抑えられない。  暗闇に目を慣らそうと、必死に目を凝らす。  幸いにもテーブル上には小さいキャンドルがあり、それが柔らかく儚い炎を揺らめかせることでかろうじて薄闇を保っていることが判明した。  ゆらゆらと大きめの影が揺らめきだし、お化け屋敷みたいな雰囲気を醸し出しているが、笑い事ではない。  指先と膝が、妙に重くて、まとわりつくような蒸し暑さを感じる。まだ4月初めというのに、汗ばむにはまだ早いのではないか?  気のせい。  そうだ、暗いからそんなこと考えちゃうんだ。  私は耳鳴りに声へ出さずとも「黙れ」と念じて、平静を保つ。もし自分が取り乱してしまったら、朝田さんの心に溢れている不安をますます煽ることになってしまう。
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