報いとお礼

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 感情的にならないよう、事務的な文章にして互いにメッセージを送り合っているためやりとりはいささかビジネスライクになっているけれども、その方がむしろ防波堤になるのではと、私はどうしても、そんなことを考えてしまう。  朝田さんにも、最後まで見届ける覚悟は既にできているのだろうし、私だって執筆者として、ルポルタージュを作成する者として無傷では済まないかもしれないなという心構えは持っているつもりだ。  文字化けに脅かすような言葉を赤文字にして羅列するぐらいのちからはまだ、あいつらには残っているようだから。  ふう、とタバコの煙を部屋中に広がるよう天井へ向かって吹き付け、スマホを手に取る。朝田さんから社内において権藤と霧島の処置が決まったとのことだった。  結果から言えば嫌がらせ行為の延長で怪我をさせ、その結果胎児の命まで奪い、朝田さんに対して精神的苦痛を与えたとして入院中ではあるが解雇通知を双方宛に送付する形になった。罪悪感もなくのうのうと過ごしていたあいつらが到底素直に受け取るとは思えなかったが、どうやらあちら側は反論する以前の問題なようだ。  権藤は夜になると病院のベッドで寝ていると、襲われるからと言って日没から夜明けまでずっと病棟を車椅子を使って徘徊し、病室へ戻せば暴れて泣き出すので予後経過を鑑みて精神病棟への転床を予定しているという。  あいつらが、追い出したのに襲ってくるんです。  あの女と赤ん坊を連れて、私を責めるんです。  だから逃げているんです、家族も頼りにならないの。  自業自得だと、突き放されるんです。  そんな悲痛なぼやきを毎晩繰り返して、昼間に仮眠していても悪夢にうなされ、今はすっかりやつれてしまっているらしい。  霧島は「毎晩赤子の声がする、あいつが私を睨みつけて罵ってくる」と怯え、迎えに来ない家族を待ち侘び「ねえ、いつパパとママは来てくれるの?」と始終訊いてはナースを困らせているそうだ。  家族は霧島を「必要ない子ですが、外に出られても迷惑ですし金だけは払うのでそこに閉じ込めてください」と病院側と会社へ冷たく言い放ち、引き落とし先である金融機関の口座番号だけを教えて、あとは連絡がつかないらしい。  ねえ、パパとママはいつ来てくれるの?  パパに言って追い出してもらわなくちゃ、あいつも、あいつの赤ん坊も。  毎晩毎晩、私に覆い被さってくるの。
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