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取材と停電
夜中、朝田さんが妙な物音で目を覚ますと何やら猫たちが騒がしい。もじもじと落ち着かない様子で、部屋とベランダを繋ぐ掃き出し窓にかかったカーテンごしに、外の様子を伺おうとしていた。
どうしたのだろうと寝ていたベッドから起き上がり、電気をつけると猫たちが一斉に自分を見る。その顔はまるで、膨れっ面でも浮かべているかのように不機嫌そうな印象を受けた。
「ごめん、眩しかった?」
いっぴきは茶白のブチ、もういっぴきはキジトラの猫たちは「そんなんじゃない」とも言いたげに、朝田さんを見上げる。
小さな虫でもいたのかな、と猫たちに訊こうとしたその時だった。
バタバタ、ガタガタ、バサバサッ!
バサバサッ、ドスン、ガタガタ!
カーテン越しでもよくわかる、なにか大きなものがベランダで飛び跳ねているような音が部屋に響いた。
猫は一瞬、びくんと身体を震わせながらもいわゆる「怖いもの見たさ」なのか、カーテンと掃き出し窓の間にぐいぐいと首を突っ込み、正体を確かめようとしていた。
「だめっ!」
朝田さんはなぜか、猫たちに「見せてはいけない」気がしたという。
「なんというか、もし見てしまったら、この子たちが危ないって思って……単なる直感でしかないんですが……」
「いや、そういう直感って大事だと思いますよ」
「なにしろ室内飼いだからか、警戒心がなくて。可愛いんですけどね」
なんだなんだ、と目を輝かせる猫たちを「早く寝なさい、まだご飯の時間じゃないから」など話しかけつつ不満そうな顔を向けられながらも朝田さんは急いで部屋から追い出した。
そして、心細さと不安感を抱えたまま、物音が静まる明け方を迎えるまで、部屋の電気をつけっぱなしにして布団へ潜り、じっと時間が過ぎるのを待ったという。
ちなみに朝田さんが家族とともに住んでいるところは野生の生き物が住まうことのできる山林はおろか、藪などもない、整備された住宅街である。ましてや大きな羽音がすればカラスかと勘ぐるが、鳴き声もせずただ羽音とバタバタせわしなく動き、ベランダの床をけたたましく鳴らす音が続くだけであった。
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