【第九話】特別な日をあなたと

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 しかし、にこにこと自信ありげに持ってきたその箱の中身が気になる。  横幅三十センチ程もある大きさのその箱は、確かに外で渡されると荷物になってしまう気がした。  丁寧に包装を解いていくと、箱に記載されているブランド名が見えてきた。  それは誰もが知っている高級ファッションブランドだった。  そっと箱を開けてみると、中には一足のパンプスが入っていた。  繊細な黒のレースが全体に施されている美しいパンプス。  ヒールは七センチほどの高さがある。  踵から爪先部分のカーブの形やヒールの細さなど、全てが洗練されており美しい。  芸術品のようなパンプスに思わず見惚れてしまう。  色、レースの柄が本日のワンピースにぴったりのデザインだった。  真琴はこのブランドを雑誌の中の広告の世界でしか見たことがなくて、憧れの世界のものだと思っていた。  一度だけ興味本位でネットショップを覗いたことがあったが、ここのパンプスの相場はたかが一足に十万円以上といったところで、すぐに諦めた記憶がある。  今まで奏から贈られたプレゼントの中で、今回が一番高級品であることは確かだった。  反応をするのを忘れてしまうくらいパンプスに見惚れて固まっていた真琴に、奏は声をかけた。 「真琴に似合うと思ったんだ」 「うん、すごいかわいい……。履いてみてもいいかな?」 「勿論」  真琴はその場にパンプスを揃えて、奏に支えられながらゆっくりと履いてみる。  サイズはぴったりだった。  試しに数歩歩いてみてもフィットしており、全く問題ない。  奏が何故真琴の足のサイズをぴったり把握しているのかについては問いただしたい気持ちがあるも、さすがに無粋すぎるので胸の内で抑えつけた。  それにしても、本当に惚れ惚れするくらいオシャレな足元になった。 「今日はそれを履いて欲しいな」 「うん、そうする! すごく可愛いし、本当に嬉しい……ありがとう」  真琴が素直な笑顔を見せると、奏は満足そうに頬を緩めた。 「着替え終わったら髪の毛のセットをしてあげようか」 「え、できるの?」 「まあね」  奏がそんなことまで出来るとは思わなかった。  どこで習得したのだろう……過去に他の女性に対してそういったことをしたことがあるのだろうかなどと勘繰ってしまう。  奏が出来るというのであれば間違いないだろうし、信頼できる。  自分では凝ったアレンジはできないし、奏の言葉に甘えてお願いすることにした。
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