【第九話】特別な日をあなたと

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 夕方に近い時間帯になると、真琴はワンピースに合わせて丁寧にメイクをして、身支度を始めた。  奏は真琴がどんな格好でいても褒めてくれるが、今日は奏が選んでくれたプレゼントを身に纏って外出するのだと思うと、彼の横に相応しい女性でいたいという気持ちになり、より一層力が入る。  視界に捉えられる場所に置いているパンプスを見るたび、心が躍る。  黒のワンピースに合わせて、リップの色はいちじくの実のような上品で落ち着いた赤を施し、メイクが完成した。  着替えも終えると、真琴は普段自分が使っているヘアブラシとヘアアイロンを持って、奏のいるリビングに向かった。  奏もすでに準備が整っていたようで、グレースーツに白のシャツ、ネクタイは以前真琴がプレゼントしたものを身に付けていた。  文句なしにカッコいいと思ってしまい心臓がドキリと大きく脈打った。 「今日はいつもより落ち着いてる雰囲気なんだね。綺麗だよ」 「ん……。そっちは言われ慣れてるだろうけど、奏もカッコいいよ。似合ってる」  奏の外見が好きなのは随分昔からだが、本人に容姿を褒める言葉を伝えたのは初めてかもしれない。  真琴が照れ臭そうに伝えると、奏は嬉しそうに純真無垢な笑顔を見せた。  ダイニングの椅子に真琴を座らせ、奏は手際よく真琴の髪をセットしてゆく。  髪を触られる感覚が心地よくて、幸せな時間を感じると共に、いつもと違う距離の近さで緊張もしていた。  特に会話をすることもなかったが、頭の中に奏へのいろんな感情が雪崩れ込んできて、ずっと何かを考えていた。  そんな思考の迷路に迷っているうちに、ヘアセットが終わったらしい。  奏から声をかけてられて初めて気づいた。  鏡で見せてもらうと、トップはふんわりと空気感を含ませて、サイドはゆるいねじれ編みが施されて、後頭部にシニヨンを作り、ひとまとめになっていた。顔まわりに少しだけ後毛を出していてこなれたイメージになっている。  プロ顔分けの出来栄えに真琴は感動した。  何より、今日のワンピース、ヘアメイクが完璧に合っている。おまけにあのパンプスがある。  自分で言うのも何だが、今までの人生で一番美人な日かもしれない。そんな日を奏と過ごせることが嬉しかった。
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