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「凄い! ありがとう!」
「どういたしまして」
「本当に何でも出来るのね……」
「そんな事はないよ」
奏は謙遜の言葉を口にしたが、真琴の瞳には間違いなく完璧超人として映っていた。
持ち物の支度を終えると、二人は家を出た。
歩くたびカツカツとヒールの音を響かせるのが誇らしかった。
「ヒール、いつもより少し高いから足元に気をつけてね。腕を掴んでても良いよ」
「うん……」
奏のエスコートに素直に従った真琴を見て、奏は一瞬だけ意外なものを見るような表情を見せた。
外では手を繋いだりするのを嫌がっていた真琴が、いつのまにかそれを許容するようになっていたことに驚いたのだろう。
タクシーを捕まえて、都内の一等地に聳え立つ高層ビルの前で降りる。
エレベーターで上層階へと上がっていき、予約していたお店に辿り着いた。
外観ではどんなお店なのかわからないけれども、確実に高級店だとわかるような雰囲気が漂い、初見では中々扉をくぐるのは覚悟がいるようなお店だった。
そんな中、奏は何の気兼ねもなく中に入り、流れるようにスタッフの案内に従い進んでいく。
真琴はあまり視線を泳がせないように落ち着いたフリをするので精一杯だった。
予約していた席に案内されると、そこは都内の夜景が一望できる場所だった。
キラキラと数え切れないほどの光の海が眼下に広がる。
ベタな演出だけれども、その美しい光景にしばらく見惚れてしまっていた。
こんな女性の夢をつめこんだ、プロポーズするのに理想のような所……そこで少し脳内に電撃が走る。
――ま、まさか?
いや、そもそもまだ二人は正式に付き合ってはいない。
結婚なんて飛ばしすぎている。
でも、この男なら言い出しかねない。
頭の中で「でも」と「しかし」を繰り返して議論が始まり出すも、ウェイターがフレンチのコース料理を運び始めた所で、意識は現在に戻った。
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