【第九話】特別な日をあなたと

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 二人はそのまま一緒に十階の角部屋へと足を進める。  玄関を開けて中に入った途端、奏は真琴を引っ張り、壁に押し付けて進路を塞いだ。 「えっ!? ちょっと、なに!?」  その問いに奏は何も応えず、真琴の首筋に唇を落とした。 「ん……っ、ここ、玄関だよ……!? まだ、靴も脱いでないのに……っ」  お構いなしに首筋から鎖骨へと唇を落とした後、顔をぐいと近寄せ、深く長いキスをした。  舌は入れずに、ただ唇を重ねるだけのキスだが、体が熱くなる。 「今日の真琴はいつも以上に可愛くて、我慢出来なかった。一秒でも早く、こうしたかった」 「よく恥ずかしげもなくそんなことを……」  照れる真琴の表情を見て、心底満足そうな表情を見せる奏。 「じゃあ私の誕生日なんだから、最後にわがまま言ってもいい……?」 「何かな?」 「この格好とこの場所じゃ嫌だから……、後でちゃんと、……して」 「いいよ。じゃあ、着替えたら僕の部屋においで」 「うん……」  真琴は自室に戻り、ワンピースを脱いで、メイクを落とし、シャワーも済ませて一旦身軽になった。  すっきりした状態の真琴は奏の部屋の前に立ち、深呼吸をしてからノックをする。  中から奏の返事が聞こえた。  緊張しながら中に入ると、奏はいつものように優しい笑みを浮かべている。  いつからかわからないけど、奏の笑顔を見るとほっとするようになってしまった。  今まで何度かお邪魔したことのある奏のベッドの上に乗ると、奏は真琴を温かく包み込むように抱きしめた。  奏の体温と匂いを深く感じたくて、その胸に顔を沈めて、素直に身を預けた。 「真琴、世界で一番好きだよ」  奏が愛の言葉を囁くと、真琴は顔を上げて、その唇を差し出す。  そして二人は再び、深く静かにお互いの唇を沈めていった。 【第九話 終わり】
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