【第十話】つながる想い

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【第十話】つながる想い

 八月中旬。明日からお盆休みがはじまる。  真琴は仕事も休暇を取り、帰省する予定を入れていたので、自室でその荷造りに励んでいた。  奏にお盆の間どうするのかと尋ねると、帰る予定はないということだったので、彼は数日一人で生活することになるようだ。  新幹線に乗っていくと伝えると、先日の痴漢の件もあったからか、地元の駅まで着いていくと言い出すものだから、あまりの過保護ぶりに驚いた。  兄の健太郎と一緒の新幹線に乗って帰省するから問題ないと伝えると、なんとか納得してくれた。  そんな数日前のやり取りを思い浮かべながら、荷造りを終え、その日は早めに就寝した。 *  *  *  翌朝、午前九時に家のインターホンがなった。  健太郎が真琴を迎えに来たことを知らせるチャイムだった。 「じゃ、行ってくるから」 「気をつけて」 「……」  もう外に出られる状態なのに、立ち止まって玄関扉を開けようとしない真琴。  何か後ろ髪をひっぱられているような、気まずそうな表情をしている真琴を見て、奏は何かを察した。 「真琴、行く前に」  奏が長身を屈めて真琴の身長に合わせる。顔を軽く引き寄せて、優しいキスをした。  そっと唇を離すと、真琴は赤面していたが、先ほどの曇った表情は消えていた。 「じゃあね。なんかあったら、連絡するから」 「うん」  真琴は赤面したまま視線を外して、そのまま玄関扉を開けた。  そして、マンションのエントランスで待つ兄の元へ早足で向かった。
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