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会社の始業時間である九時を回った頃、真琴は会社に連絡し、昨日の顛末を話した。
さすがに上司も同情してくれて、ひとまず一週間の休みを勝ち取った。足りないようならまだ伸ばしても良いという気遣いも得た。
元の生活を取り戻すために、収入源がなくなるわけにもいかないので、臨機応変に対応してくれる会社には感謝の気持ちでいっぱいだった。
続けざまに両親にも報告の電話をしておく。
奏の名前は出したくなかったので、知人の家に居候させてもらうということだけを伝え、体には大事ないということを伝えると、両親も安心していた。
昼頃には奏と一緒に繁華街に出て、お気に入りで馴染みの洋服店へと足を運んだ。
住む部屋を用意してもらったとはいえ、下着も部屋着も私服もない状態では困る。
今後の出費を考えて、必要最低限だけを買おうと思ったが、予想以上に荷物が多くなってしまった。
正直、荷物持ちを連れてきてよかったと思うが、その場に奏の姿はなかった。
というのも、買い物している間に自分の好みを主張してきたり、馴染みの店員に彼氏と間違われるのが癪で、途中からは彼を別の場所に待機させていた。
彼と離れてから約一時間は経過しただろうか。
ようやく買い物が済んだのでメッセージアプリで連絡を取ると、どうやら近場のカフェで時間をつぶしているらしかった。
丁度真琴も一服したいと思っていたので、その場所に向かうことにした。
指定のカフェに入ると、奥の座席に優雅に足を組み、コーヒーを飲んでいる天敵を見つけた。
真琴もコーヒーを注文し、奏のいる席へと向かう。
「もう済んだの?」
「衣類はこれで十分だと思う」
「真琴、今日の晩は何が食べたい?」
奏は不要な会話を削ぎ取る癖があるのか、急に別角度の質問が飛んできて少し面食らった。
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