【第十話】つながる想い

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 自分の横に広がる林を眺める。  とてもじゃないがここに人が通るとは思えない。  ――しかし……。  真琴は核心に近い意志を持って林の中に飛び込む。  そしてそのまま真っ直ぐと突き抜ける。  林は深くて先が見えない。それでも前に進み続けた。  そしてその林を抜けると、そこは小高い丘のような場所に繋がった。  そこだけは木々がなく、開け放たれた空間となっており、その前方には先程まで見えていた山の谷間が見える。  そこに、一人の少女が座って空を眺めていた。 「千花ちゃん……?」 「うん!」 「居た……! 良かったぁ……」  真琴は少女に駆け寄ると、力が抜けてその場にへなへなと座り込む。 「お空、きれい! 見て!」  少女は何も悪びれた様子もなく、ただ無邪気な笑顔で空を刺す。  空は色が変わり始めていた。  オレンジとピンクのグラデーションがかった空に、虹がさしていた。  夕方の空というのは真琴にとって何も特別なことはないが、夕方の虹というのは初めて見た。  この世界から隔絶されたような静かな場所でその光景が広がるのは、とても神秘的で、心が震えた。  それと同時に、ある大切な記憶を思い出した。 「この場所、知ってる……」  遥か昔に、自分もここで虹を見た。  優しくて、大好きな誰かと一緒に。  ――『真琴、大人になったら僕と結婚してくれる?』  どうして、忘れてしまっていたんだろう。  彼が真琴に明らかな恋心を見せるようになったのはあの時からだった。  あれからずっと、自分だけを見てくれて、約束が果たされるのをずっと待ってたんだ。  自分はこの場所も、そんな約束も、すっかり忘れてしまっていたのに。  真琴は目の前の少女に向き直り、しゃがみこんで視線を合わせた。 「ここは秘密の場所なの。でも、こんな時間まで一人でいたら危ないし、お母さんがすごく心配してるよ。みんなで千花ちゃんのこと探してたの。もう帰ろ?」  真琴が優しく手を差し伸べると、千花は素直にその手を握った。  小さくて可愛いその手を決して離さないように握り返した。 *  *  *
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