【第十話】つながる想い

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 その後は無事に千花を母親の元へと帰すことができて、一同の捜索は終わった。  お手柄だと顔を合わせる人全員に褒められて、千花の家族からは何度も頭を下げて感謝をされた。  肝心の真琴はそれどころではなく、この出来事に運命的な何かを感じざるを得なくて、心ここに在らずといった様子だった。 *  *  *  それから三日が経ち、のんびりとした実家生活も終わりを迎える。  真琴と健太郎は荷物を整え、両親に別れを告げる。  二人はまた新幹線に揺られて、自分達の家に向かう。  新幹線の中でも物静かな真琴を見て、健太郎は声をかけてきた。 「なんか急に大人しくなったな。どうした?」 「別に何もないけど、思い出したことがあって……まあちょっと考え事してるだけ」 「へー」  そういえば、何かあったら連絡すると奏に伝えていたけど、帰省してから何も連絡をしていなかったことも思い出した。  本当にこれといって何もなく、迷子捜索の件はわざわざ奏に連絡するような事ではないから連絡していない。  向こうからも特に連絡は来ていなかったし、問題はなかったのだろう。  無事に東京へ着き、それぞれの家に帰ろうというとこで、健太郎はまだついてこようとしてきた。 「え? お兄ちゃんの帰る電車これじゃないよね?」 「そうなんだけど、さっき奏から連絡があって。家まで送ってあげてほしいって」 「なにそれ……。本当、過保護なんだから」 「お前がガキすぎるから心配されてんじゃないか?」 「うるさい!」  悪態を突きながらも二人で奏の家に向かう。  健太郎は律儀に奏の頼み通り、十階角部屋の玄関までついてきた。 「ほら、ついたしもういいでしょ!」 「せっかくだし奏の顔くらい見て帰るよ」  玄関扉を開くと、そこには奏が待ち構えていた。  相変わらず玄関で待ち伏せされていると心臓に悪い。 「奏、久しぶり! 真琴がいつもゴメンな」 「問題ないよ。ここまで送ってくれてありがとう」 「お前も元気そうで良かった! じゃあな!」  本当に挨拶だけして、そのまま健太郎は帰って行った。  扉が閉まり、玄関に佇む奏を見て、真琴は少し照れくさそうに目を逸らした。 「……ただいま」 「おかえり。寂しかったよ」  奏はそのまま真琴の腰に手を回し、体を抱き寄せ、その唇にキスをした。  数日ぶりの奏の体は、触れる場所全てが敏感に反応して、思わず身を乗り出してしまう。  玄関先にも関わらず、その場で舌を絡め合い、お互いの存在を確かめるようなキスを交わす。  どんどんと体に熱がこもり、もっと欲しいと乞うように密着させていく――……と、突然背後の扉がガチャリと音を立てて勢いよく開いた。 「なあ! そういえばさ……」 「……」 「……あれ? お前ら……」  上がっていた体温が一気に冷めていくのを感じた。  何か用事があったらしい健太郎が引き返してきた。  そして二人の行為を初めて部外者に目撃されてしまったのである。
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