【第十話】つながる想い

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「あ、あれはお兄ちゃんが勝手に勘違いしてただけで……そもそも、奏が私のこと好きなことにも気づいてなかったバカなんだから、そんな言葉無視してよ!」 「そっか、ふぅん……」  すぐそばまで来た奏は、真琴の体をじわりじわりと押し倒して、その体に覆いかぶさってゆく。 「いつまで付き合ってることにする?」  奏はじっと真琴の瞳を見つめて問う。  その揺らぎのない視線に釘付けにされてしまう。 「僕は真琴のことが好きだから……ずっと恋人でいたいな」  少し眉を下げて、捨て猫のような表情をする。  寂しげで、切なくて、思わず手を差し伸べたくなるその表情。  奏は真琴の髪を一房掬い上げて、その指で弄ぶ。 「真琴は僕のことをどう思ってるの?」  真琴の呼吸が止まる。  返事をするどころか、上手く息もできないほど体が硬直する。  その間、一瞬たりとも二人の視線は外れず、見つめあったままの膠着状態だった。 「わ、わたしは……」  真琴は小さく、途切れながら、ゆっくりと言葉を発する。 「わたし……も……」  恥ずかしくて、視線を外したい。  でも、外せない。  涙目になりながら言葉を続ける。 「奏のことが好き……」  ようやく、言えた。  羞恥心からか、安堵感からか、どんな感情なのかわからないまま、その涙が目の端から流れ落ちていった。  奏は、その言葉と涙に驚いたようで、目をまんまるくさせていた。 「本当に……?」 「本当」 「真琴が僕を?」 「そうだってば」 「じゃあ、何で泣いてるの……?」 「これは……自分でもわかんないの!」  真琴は開き直って逆ギレのような返事をしてしまった。  すると奏の表情には笑みが戻り、右手でその涙を拭った。 「まさか本当に、そんな日が来ると思わなかった」 「じゃあさっきの試すような質問は何だったのよ……!」 「ただ、いつもみたいに可愛い反応が見たくてからかってみたんだけど」 「最低!」  二人はいつもの調子の会話に戻る。  奏はより顔を近づけて、優しい声で囁いた。 「じゃあ僕たち、本当に恋人同士になれたんだね」  あまりに甘美な声色に、胸の鼓動が鳴り止まない。  今にも爆発して飛び出しそうなくらい、真琴にとってはキャパオーバーだった。 「結婚しようね」 「は!? 話が飛躍してるんだけど!? 今交際スタートしたばっかなのに!」 「ふふ、そっか」  声を出して笑う奏は珍しいので、相当ご機嫌で浮かれているのが見てとれた。
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