【第十一話】どうしても欲しい

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【第十一話】どうしても欲しい

 八月十六日をもって、真琴と奏は晴れて正式な恋人となった。  それから一ヶ月が過ぎようとしていたが、特に二人の関係に変化はなかった。  ただ、真琴も奏のことが好きなんだという確信が、彼をとても上機嫌にしていた。  今までのように真琴が悪態をついたり、怒ったりしても「でも僕のこと好きなんでしょ?」という表情をして、奏は笑顔で受け流す。  軽んじられてる気がして、それは今まで以上にイライラさせられることでもあった。  そして、まだキス以上のことはしていない。  交際をスタートさせた初日に奏の寝室で一緒に寝たが、その日は特に何もなかった。  さすがに初日からというのは、手が早すぎると相手も感じたのだろうかと、その時は気にすることはなかった。  その後、週に一、二回ほどのペースで一緒に寝ているが、やっぱりキス以上のことはしてこない。  一緒の布団の中で体を密着させ、舌を絡ませ合うようなキスをして、もっと相手が欲しい――そう思ったところでやめられて、奏はあっさりと寝てしまう。  真琴はというと、火照って昂る体と感情を抑えつけるのに必死で、しばらく眠る気になどなれないのだった。  だから、彼の部屋で寝た翌朝はいつも睡眠不足になるので、逆にストレスがかかる。  それなのに奏はとても目覚めの良い顔をしていることに腹が立つ。  二人の交際は、その場をごまかすための咄嗟の嘘からスタートしたわけで、兄の健太郎に、誰にも言わないようにと口止めしてしまった以上、互いも周りには打ちあけないでおこうということで話がついている。  ただ、お互いの知り合いかつ信頼できる人物にだけは伝えておいた方が良いかもしれないということで、菜知も追加された。  真琴から菜知へは連絡していないので、きっと奏から伝えられているだろう。  今のモヤモヤした気分を誰かに聞いて欲しくて、真琴は菜知を頼って連絡をとる。  菜知からの返信はすぐにきて、次の土曜に一緒にランチをすることになった。 *  *  *
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