【第十一話】どうしても欲しい

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「まあ真意はわからないけど」  菜知は持っていたコーヒーカップをコトン、とテーブルの上に置いてた。 「愛などなくとも肉体関係を持てる人間は山ほどいる。私もそうだ。でも君たちはそういう人間には見えない。つまりだ。愛があるからこそ、そういった行為を必要以上に大切にしているのかもね」 「そうなのかな……」 「君は大切にされてるんだよ。気に病むことはないし、焦ることもないよ。それに真琴はすっごく魅力的だよ」 「うーん……」  その後も菜知に励まされ続け、三時間ほど話し込むと、その日はお開きになった。  菜知の言うこともわかるが、真琴はどうしても自信が持てなかった。  この際大切だなんてどうでもいい、ただ全身で熱を感じたい、繋がって絶頂を迎えたいというモヤモヤが残るのだ。  どうしても、欲しい。 (やだ、私、ただの欲求不満な獣みたいだわ……)  〝奏としたいこと〟を頭に浮かべていたら頬が熱くなって恥ずかしくなった。 「真琴さん」  下を向きながら歩いていると、前方から名前を呼ばれた。  あまり聞き覚えのない少女の声だった。  顔をあげると、そこにはいつか出会った奏の妹、晶がいた。  そしてその横には青年男性がいた。奏と同世代くらいの年齢だろうか。  髪をオールバックにきっちり固めて、シワひとつないタイトなスーツを着こなしている。 「晶ちゃん……?」 「また会えて嬉しいです。棗お兄様、こちらは奏が話していた真琴さん」 「ああ、本田 真琴さん」  なんとなく察していたが、これが奏と晶の兄。瀬戸家の長男だと思うと緊張が走った。  そして何故、会ったこともない奏の兄まで自分の名前を知っているんだと思うも、気軽にツッコミを入れられるような空気ではなかった。  晶と棗は人形のように整っている顔をしているも、二人ともほぼ無表情に近く、淡々と話をしている。  常に薄笑いを浮かべてる奏の方がまだ人間味があると言えるくらいだ。  奏とは顔のつくりが似ていないが、晶と棗の二人の顔はよく似ていた。 「初めまして、瀬戸 棗です」 「初めまして……いつも、奏にお世話になっています……」 「こちらこそ、奏がご面倒をかけていませんか」  かけている、と言いたい。  言いたいけど、笑ってくれそうな雰囲気ではない。  何も言えず愛想笑いだけで返事をしたら、晶が口を開いた。
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