【第十一話】どうしても欲しい

4/6
前へ
/150ページ
次へ
「真琴さん、タピオカってどこで売っているか知っていますか」 「タピオカ?」 「私たち、タピオカを飲んでみたくてここに来たんですけど、迷いました。人も店も多くて、わからないんです」 「そ、そうだったの……。一応、近くにあるから、案内しようか?」 「はい」  無表情二人組がタピオカを飲むためだけに街に来て、迷子になってる様がおもしろかった。  笑ってしまいそうになる表情を抑えつける。  ついてきて、と言って徒歩で十分ほど歩き、よく利用していたタピオカドリンク店へ到着した。  棗と晶だけでは注文の仕方がわからない可能性があったので、真琴は店内もついていくことになり、三人はレジカウンターの方へ向かう。  無事に棗と晶の分の注文が終わったが、真琴はもともと注文するつもりはなかったので黙っていると、店員が「奥様はいかがされますか?」と尋ねてきた。  奥様という言葉に一瞬反応できなかったのだが、すぐに自分のことを言われていると気がついた。 「え! わ、私の分は別に……!」 「私と同じものをお願いします」  断ろうとするも、晶が追加注文をした。  ちらりと棗の方を見ると、彼は耳まで顔を赤くして、手で表情を隠すように覆っていた。 「奥様とかそういうのでは……」  何かブツブツと言っているのが聞こえた。  さっきの奥様発言にここまで照れることがあるなんて、どれだけこの人は女性慣れしていないんだ。  奏と真逆な反応を見ると、自分が少し優位に立てた気になった。  案外この人可愛いな、と心の中で呟いた。  それにしても中学生くらいの子供がいるように見えたのか、と少しショックも受ける。  社会人になってからフレッシュさがなくなったことは自覚しているが、そこまで老けて見えるのか……とまた自信をなくして落胆する。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

328人が本棚に入れています
本棚に追加