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「アンタほど上手くはないけど、私だって普通に料理はできる。部屋を貸してもらっている以上、私も何かやらないと気が済まない。だから、料理は私に担当させて」
「んー……僕も料理を振る舞うのが楽しみにしてたんだけどな。間を取って、それぞれ家事担当を曜日で決めるのはどう?」
「それでいいわ」
周りから見ても、この二人の間には〝楽しい日常会話〟を楽しむ様子は一切なかっただろう。
ただ淡々と、必要なことだけを伝えるビジネスライクのような会話だった。
特に会話を続かせることもなく、真琴のカップが空になったところで、二人はカフェを出て帰路につく。
その際も、日常会話を楽しむ様子などなかったが、奏は真琴と一緒にいられるだけで幸せといったような様子であった。
部屋に着くと、真琴はまず最初に下着を替えた後、それぞれの衣類を整理した。
昨夜は下着を持ち合わせていなかったので、同じものをつけるしかなく、今日は一日落ち着かなかった。
新しい下着に付け替えた時は身が清らかになるような解放感を感じ、やっと尊厳を取り戻した気さえした。
購入した服を着て軽くファッションショーなどを楽しむなどしていて、ふと壁時計を見るとすでに四時半を回っていた。
自分から本日の料理番を買って出たことを思い出し、キッチンに行き、冷蔵庫の中をチェックし、本日の献立を考える。
冷蔵庫内にはさほど余りものがなかったので、献立は何でもよかった。
奏の好物など知らないが、長い付き合いの中で嫌いなものがあるような記憶もなかった。
奏はリビングでパソコンをチェックしているようだったが、あえて話しかけて好物を聞くのもあざとくて嫌だった。
本日も自分の好物の中から「タコライス」に決め、足りない食材を求めて近所のスーパーへ買い出しに行く。
スーパーの場所は外出する途中に見つけていたので、奏に尋ねるまでもない。
徒歩五分ほどの近場にわかりやすく存在した。
途中、辺りを見回すと道路や他の建物も綺麗に整えられており、街全体がデザインでもされているかのように感じた。
自分の住んでいた家、街の雰囲気とは全然違う。
こんな所に平然と住む奏は、別世界とまでは行かないが、明らかにランクの違う人種のように思う。
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