【番外編】青春に消えた恋

1/5
前へ
/150ページ
次へ

【番外編】青春に消えた恋

 柚木 恭平が高校一年生になったばかりの初夏のことだった。  今日はバスケ部の練習が休みだったので、特に寄り道もせずに一人帰宅していた。  何も考えずに自転車を飛ばしていると、道の先から言い合う声が届いてきた。  女子の甲高い声が複数聞こえる。  特に興味がなかったので、スルーして通り過ぎようとしたが、目に入ったのは一人の女子を三人の女子が取り囲んで何やら因縁をつけているような風景だった。  わかりやすく、一対三で制服が違う。  一の方は恭平と同じ学校の制服だった。  三の方はこの辺では有名な私立進学校の制服で、一目で見分けがついた。 「瀬戸先輩の連絡先教えてって言ってるだけじゃん! 年上の言うことくらい素直に聞きなよ」 「ちょっと気に入られてるからって調子のるなよ、ブス」 「ほんと、アンタよりこの子の方が瀬戸先輩にお似合いなんだから、協力しなよ」  見苦しい女子たちの言い合いの中に自転車で割り込む。 「ブスはアンタらだろ。よってたかって一人をイジメてたのしーの? 顔だけじゃなくて性格もブスなんだな」 「は!? なにコイツ……」 「お前ら白高の生徒だろ? 俺、あそこの教師に知り合いいんだよね。 お前らのことチクってやろーか? 頑張って稼いだ内申がパァになるぜ」 「うざ……」 「別になんもしてないし、行こ」  恭平の脅しが聞いたのか、女たちは一斉にその場から消えた。  やっかみを売られていた女子の方を見ると、その顔には見覚えがあった。 「あれ、委員長?」 「柚木くん……? あ、ありがとう……」  その女子も突然のことに驚いた表情をして固まっていた。  恭平と同じクラスで、クラス委員長の……ダメだ、地味すぎて名前が思い出せない。 「あー……。えっと、委員長、こんなとこで何してんの?」 「本田です。委員長って呼ぶのはやめて」  ああ、そういえばそんな名前だった。  本田 真琴だったっけ。  クラスで最初に委員長を決めるとなった時、誰も立候補せず、誰かが「しっかり者の本田さんが良いと思います」って言い出して、結局流されて委員長をやらされてしまった可哀想な女子。 「さっきのアイツら何?」 「さあ。好きな男に面と向かってアタックできない卑怯者たちよ。私は何にも関係ない」  思ってたより強気で話すんだな、と思った。  大人しくて流されやすく、地味な印象だったのがひっくり返った瞬間だった。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

328人が本棚に入れています
本棚に追加