328人が本棚に入れています
本棚に追加
「この前、ルール違反した先輩に対して怒って、喧嘩になってたのを見た」
「あ〜、アレね」
「意外と正義感あるんだね」
「意外とってなんだよ」
「もっと不真面目なのかと思ってた」
「あのなあ」
真琴こそ、大人しいかと思えば強気だし、無愛想かと思えば笑顔は素直だ。
意外だと思っていたのはこちらも一緒だった。
何もないところで自転車にブレーキをかけて、その動きを止めた。
振り返って、真琴の顔を見た途端、ぽろりと言葉が溢れた。
「俺、お前のこと好きかも」
「へ」
「俺と付き合ってよ」
「……うん、いいよ」
これが二人の交際の始まりだった。
真琴が驚いた顔をした後、頬を赤らめて目を逸らしながら頷いたその時の表情が胸を貫いた。
学校ではお互い干渉しないが、帰り道は待ち合わせしていつも二人乗りで帰った。
恭平の方が部活の時間が遅くなることが多かったが、真琴は健気に恭平の部活が終わる時間まで待っていた。
いつかの帰り道、二人きりの夕焼けの中で初めてキスをした。
ただ軽く唇を重ねるだけの甘酸っぱい子供のキスだが、その時の二人にはそれが精一杯だった。
お互いがファーストキスだという事実が何より嬉しかった。
帰り道だけは二人きりの世界で、たくさんのことを話して、アイスを食べたり、キスしたり、そんな青春の恋が詰まっていた。
ただ、たくさん喧嘩もした。
お互いに語気が強いので、すぐに言い合いになる。
それでもぶっきらぼうな愛をお互いに感じることができていたから、しばらくすると仲直りができていた。
しかし、その青い春は長くは続かなかった。
付き合って半年ほど経った時、すごくつまらないことで言い合いの喧嘩になった。
相変わらずお互い強い言葉を使うものだから引くに引けなかった。
そしてこの日はどんどんとヒートアップしてしまった。
勢いで「お前は本当に性格が悪い、そんなんじゃ誰もお前のことなんか好きになんねーよ。俺だって無理」という風にまくしたてて暴言を吐いてしまい、それが引き金になった。
真琴もそれを鵜呑みにして「そう、わかった。じゃあね」とあっさり関係を終わらせてしまう。
言葉足らずにも程があるが、恭平には「こんなことがあってもお前のことが好き、俺だけがお前をちゃんと好きだ」という意が根底にあっての発言だった。
しかしそんなものは伝わるはずもない。
最初のコメントを投稿しよう!